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都内在住ビジネスマン。CSV、サステナビリティ等に関することを 2019.5 Livedoor Blogから引っ越してきました。

歴史に名を刻む組織とは? 「アイコン的組織論」ブックレビュー

「私たちは、組織を象徴する本質的価値を大切にしているだろうか?短期的な数値目標の達成に、重きを置きすぎてはいないだろうか?集中すべきものと革新のバランスを議論するのに、十分な時間をとっているだろうか?自信過剰になっている可能性はないだろうか?」(本書より)
アイコン的組織論
歴史にその名を刻む組織、その条件とは?そうしたひときわ優れた組織(アイコン的組織)を作り、永続的に輝きを放つためにはか?その問いに答えたのが本書。

 

本書で定義付けているアイコン(崇拝の的)とは、以下の様に定義付けられてられています。
・あなたのいる分野で、称賛されるトップの存在になること
・想像を絶する期間、その状態を保つこと

 

そして、本書で取り上げられる14の組織はこちら
→後の補足は、本書で記された「アイコン的能力」、年号は、その組織の創設年。

 

ビジョナリー・カンパニーを初めとして、成功する企業や組織に関するビジネス書には、それこそアイコン的名著は数多くありますが、本書に興味を持ったのが、P&Gやマッキンゼーといった著名なグローバル企業に加えて、オーケストラやレストラン、スポーツチーム迄が含まれていること。



●アイコン的組織の共通点

 

本書で述べられるアイコン的組織の条件として、人材(TALENT)・組織(TEAM)・時間(TIME)の三大要素を挙げ、さらに細分化して、9つの項目により解説していますが、示される答えは、まあそれば出来れば・・といった拍子抜けする位、真っ当なこと。

 

しかし、綿密な取材と豊富なエピソードにより説得力を持たせ、定性的な内容ですが、読み応えある一冊でした。
以前に「海賊のジレンマ」という書籍を紹介してますが、フィルムアート社の翻訳ビジネス本、本来はアートやデザイン系の本を多く出版してますが、個人的にとてもイケてる出版社で、WebサイトもとてもCOOLでした。



 

多くの組織が紹介される中で、最も印象的だったのが、スタインウェイのストーリー。
世界中の著名なコンサートホールで行われるピアノコンサートには、ほぼ同社のピアノが使われるという老舗ピアノメーカー。
本書の内容と関連する出来事(青地)の加えて、沿革を時系列でまとめてみました。

 

・1853年:世界最高のピアノを受け入れられやすい価格で製造することを目指し、創業者の父と子2人の3人で創業
1864年:マンハッタンに、100台以上のピアノを展示するショールームをオープン
・1866年:ニューヨーク マンハッタンにスタインウェイホール オープン。アート&カルチャーシーンの中心となる
→高品質で大音量の自社製品の実力を発揮できる当時としては大規模ホールを自らが建設
・1867年:パリ万国博覧会での最新のグランドピアノで絶賛を得る
1880年頃:低価格のアップライトピアノや自動演奏機能付ピアノが市場に出回り、経営が危ぶまれる
・1900年:国産初のアップライトピアノ ヤマハが発売開始(グランドピアノの発売は、1902年)
1920年:ラジオが本格的に浸透し、自動演奏機能付ピアノはほとんど市場から姿を消す
・1929年:世界恐慌により、1,400社あったピアノ製造業者のほとんどが倒産
・1967年:アレン・オルガン・カンパニーが世界初の電子ピアノ RMIエレクトラピアノを発売
・1972年:低価格メーカー、電子ピアノにより、CBSコロンビアグループに売却。一族による経営が終わる
→製造コストの大幅な削減により、一時的に売上や利益を伸ばすが、品質への評判が大幅に悪化
・1973年:日本初の電子ピアノをローランドが発売
・1985年:投資家グループがスタインウェイをCSBから買収、その後、1995年に別の投資銀行家へ売却等を経て
・2013年:アメリヘッジファンドが570億円で買収、現在に至る

 

160年以上の歴史を持つ同社。こだわりのものづくりの伝統とそれを伝承するDNA。CSBグループ買収後は、一時的に評判を落としていた様ですが、今では製造過程において、最新のコンピューター制御により、現在でも最高品質のピアノメーカーとして、まさにアイコン的存在の輝きを放っています。

 

それは、創業当社から息づく原材料の木材の選定を行う担当者やその木材を原料として使用するまで乾燥させるまでの保存する設備を自社内に持ち、他の追随を許さなかったそのものづくりへの思想。
1台のピアノ製造には、9ヶ月~1年の期間を掛け、その工程はほとんど手作業。150年前も今も年間の製造台数は4,000程度との事。

 

スタインウェイ
本書より

本書では、現在の経営者である、ジョン・ポールソン氏のコメントも紹介されていますが、スタインウェイのDNAに対する理解と尊敬の念のコメントから、こうした経営層に引き継がれているのであれば、スタインウェイはこれからも、ピアノメーカーのアイコン的組織として、存在感を示していけるでしょう。(最近、中国企業が、スタインウェイの買収に興味を示している様です)

 

ちなみに、翻訳本にも関わらず、本書では、2010年のリコール問題が起きた際、アメリカ政府 公聴会でのトヨタ社長の少し眺めのコメントが称賛と共に紹介されていました。



最後に、本書で結論づける、アイコン的組織とそうでない組織との重要な違いとして結論づける記述箇所を紹介しましょう。

 

オーケストラ内に共通する、美しい音楽をつくりたい、それを可能にする環境を整えたいという思いによるところが大きい。
今日、自尊心のある企業ならどこでもミッション・ステートメントを掲げているだろう。共通の目標に向かって従業員を動機づけることを期待しているが、定期的に更新するスローガンのような言葉が並ぶことが多い。マネジメントが戦略を要約したもので、従業員がどうすることもできない言葉で書かれているため、皮肉っぽく捉えられがちだ。従業員たちは職場での行動を変えることなく、新たな企業スローガンを待つ。

 

 

アイコン的組織論ー超一流のコンサルタントたちが説く「能力の好循環」

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