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都内在住ビジネスマン。CSV、サステナビリティ等に関することを 2019.5 Livedoor Blogから引っ越してきました。

温暖化対策の黄金律 Think Globally, Act Locally 「HOPE」 ブック・レビュー

長期的な影響について討論するのではなく、今そこにある脅威について話しましょう。犠牲を払うことについて議論するのではなく、どうすれば利益を生み出せるかについて話しましょう。環境対経済という戦いではなく、市場原理や経済成長について検討しましょう。ホッキョクグマではなく、喘息に苦しむ子供たちに注目しましょう。そして、すべての望みを連邦政府に託すのではなく、都市、地域、企業や市民に力を与え、それぞれが既に自力で生み出している進歩を加速させましょう。(本書より)
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2018年も残すところわずかとなりましが、今年の漢字に選ばれたのは「災」。
改めて、1年を振り返ってみても、頻発する地震や台風、集中豪雨に記録的な猛暑。災いの多い1年でした。

今回紹介する本書は、タイトルの通り、地球温暖化や気候変動対策への希望溢れる内容で、爽やかな読後感が得られた一方、エネルギー政策をはじめとして、日本政府への不安感が増した一冊となりました。

地球温暖化問題が注目され、CO2排出削減に向け世界が動き出すきっかけとなったので、1992年 リオデジャネイロで開催された地球サミット。このサミット以降、締結国による会議(COP)が毎年開催されていますが、その成果は道半ばと言って良いでしょう。では、その解決策とは?

※ちなみに、地球サミットでは、日系カナダ人を父親に持つ、当時12歳の少女のスピーチが話題となりました。まだ聞かれたことがない方は、ぜひご覧下さい。
セヴァン・スズキの伝説のスピーチ


●温暖化対策は、社会健全化と経済強化の源泉

温暖化対策は、今現在、道半ばどころか、COP21で定められたパリ条約からの脱退をトランプ大統領が宣言していたり、先進国と開発途上国との意見の衝突があったり・・また、ペナルティを伴わない協定への実効性も疑問符を付けざるを得ないと言えます。

こうした悲観的と思われる地球温暖化や気候変動への効果的な対策が、本書の副題にもある「都市・企業・市民による気候変動総力戦」と言うわけです。

2100年時点で産業革命以前の気温上昇を2度以内に抑えるべきか?といった議論で人々は温暖化対策の動機付けにはならないこと。そして、重要なのは、今年、自分の家族や地域、仕事に何が起こるか、これを知らしめること、そして、温暖化対策は、社会を健全にし、企業は経済の強化につながることであることが主張されています。

本書で展開される石炭やビル、モビリティ等をテーマにした実践的な取り組みとその成果が全編を通して、経済的な合理性と人々の豊かな暮らしを実現する温暖化対策として紹介されています。


●二人の著者

本書の著者は、マイケル・ブルームバーグ氏と、カール・ホープ氏。

マイケル・ブルームバーク氏は、金融情報サービス企業で有名なブルームバーグを創業し、以前は、ニューヨーク市長も務めた、日本でも有名な実業家であり、政治家。フィランソロピー活動も積極的で、フォーブスの2018年長者番付ランキングでは、世界11位。

もう一人は、1892年に設立され、現在は350万人の会員とサポーターを誇る、米国の環境保護団体 シエラクラブの元トップ。

事業家と自治体の首長として経済的なメリットや豊かな生活を追求する立場と、環境NGOとして環境問題や自然科学の専門家としての立場から、テーマごとにそれぞれのクレジット入りで構成されていることも、本書に説得力と希望を与える内容となっていると言えるでしょう。


●温暖化対策のテーマ

前述の通り、本書では、温暖化対策に有効な対策となるいくつかのテーマが掲げられ、その具体的な対策が現在進行形の取り組みが非常に多くのケーススタディーとして紹介されています。

そのテーマとは、
・石炭
・環境配慮型ビルディング
・食
・モビリティ
・石油
・製造業
・金融投資 等

米国を中心にグローバルでのサクセス・ストーリーが数多く紹介されていますので、個別の紹介は控えますが、最近、日本でもESGが注目されている、金融投資にふれている「クールな資本主義」の章での印象的な箇所を紹介します。

気候変動との戦いにおいての重要な進展は、パリ協定でも米国のシェールガスブールでもありません。太陽光エネルギーや蓄電池の技術の進展でさえもありません。もちろん、これらはいずれもきわめて重要ではあります。しかし最も重要なのは、市長、CEO、投資家などといった人々が、気候変動を政治の問題ではなく、金融や経済の問題として見るようになってきていることなのです。そして彼らは、自分たちの都市、ビジネス、あるいはファンドを管理する方法の中に、気候変動という要素を加味することで得られる利益、あるいは避けられる損失があるということを認識するようになったのです。


●政府と市民との協働

温暖化対策の手段には、記事のタイトルにも採用した通り、Think Globally, Act Locallyを基本に、市民や企業による地域での取り組みが重要であることは、本書の事例を見れば理解できます。そして、最終章には、更に政府と市民と協働が重要であることも述べられています。

最近日本でも問題になっている送電網への再生可能エネルギー由来の電力送電のストップがニュースになっていましたが、アメリカでも同様のことが起こっている様です。

ここでは、対価を支払うことなく特別な恩恵を享受することを取り締まること、つまり、「レントシーキングを取り締まる」ことが有効な対策の一つとして挙げられています。

新たな技術が台頭し、従来の産業に破壊的イノベーションを起こすような脅威になった時、保守派は、市場では守りきれないことを政治的な力によって守ろうとします。屋根に太陽光パネルを設置した住宅所有者が余剰電力を送電網に供給しようとするのを電力会社が阻止しようとしたことがその一例です。



そもそも地球温暖化とは何か? 地球温暖化によって世界中で何が起きているのか?
温暖化対策に奔走し成果を上げる挑戦者とグローバルでの温暖化に関わる社会課題を知り、地球温暖化を環境問題ではなく、経済対策であり企業や地域のイノベーションとして捉え理解したいと考える皆さんに一読頂きたい一冊です。