Marketing They Are a-Changin'

都内在住ビジネスマン。CSV、サステナビリティ等に関することを 2019.5 Livedoor Blogから引っ越してきました。

カスタマー・エンゲージメントの可視化と構造化に挑む(中編)

カスタマー・エンゲージメントを高めるための要因として、明確に言えることは、商品やサービスを利用することで得られる心理的な価値や利用者が得られる優れた顧客体験、つまり情緒的価値を提供する事。情緒的満足の提供は、参加意向や推奨意向に繋がり、顧客と企業のエンゲージメントが形成され、売上伸び率との相関も高い。
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ファスト・ファッションにおけるカスタマー・エンゲージメント


前回の記事でお伝えした通り、ファスト・ファッション業界では、無印良品ユニクロ・GAP・しまむらの4社を対象に、10の設問への回答結果をもとにエンゲージメントを測定しています。

今回の調査でのカスタマー・エンゲージメントは、カスタマー・トラストスコアという名称としていますが、カスタマー・トラストスコアの順位は以下の通りとなりました。

1位:無印良品
2位:GAP
3位:ユニクロ
4位:しまむら

1位となった無印良品ですが、アイディアパークで積極的に顧客の声を取り入れ積極的な商品開発に取り組んでいるイメージの他、収納テクニックや無印の商品に囲まれたシンプルで心地良いライフスタイルを志向する単行本も発売され熱狂的ファンが多そう。また、有楽町駅前の旗艦店はその世界観を端的に表現している等のイメージを私自身は持っていますが、そうしたブランドがかもし出すイメージが最終的なカスタマー・トラストスコア結果にあらわれたと言えるでしょう。

無印良品と銀行業界のエンゲージメント形成の検証

さらに、無印良品の今回の結果に関しては、回答者に問いかけた10の設問の関係性を共分散構造分析による検証すると以下の結果となりました。
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情緒的満足の提供が他人への推奨に繋がり、その事が企業への信頼や信用を形成し、参加を促すことが把握出来ます。

また、今回の調査は、複数の業界を対象に、その業界に属する企業のカスタマー・トラストスコアを計測していますが、対象となった企業の中でもっともこのスコアが高かったのは、実は無印良品でした。
一方で、最もカスタマー・トラストスコアが低かった業界は、銀行です。一般消費者にとって、貯蓄や決済で利用する銀行に、情緒的な価値を求めるのは酷なことかも知れませんが、その銀行業界全体の共分散構造分析は以下の通りとなりました。
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決済・為替機能といった基本的な機能(機能的満足)を日常で利用し、社会的公共性が高く、生活インフラ企業と社会的信用力も高い銀行は、給与振込や引き落とし口座として一度登録すれば、他銀行への積極的な乗り換えも発生しにくいことが継続利用・再利用に繋がっていると考えられます。

また、無印良品と銀行業界全体の分析結果を比べると、銀行業界は、以下の特徴が挙げられます。

・情緒的満足を提供出来ていないため、・他人への推奨意向や参加意識が乏しい
・生活インフラとしての機能的満足から、信頼・信用に繋がり、そのことが継続利用・再利用を形成している

金融行政という枠組みの中で事業活動を行う金融機関は、多少の手数料や提携するATMの違い等、なかなか差別化を図ることが難しく、どの金融機関でも違いはないといった消費者意識も影響しているでしょう。

カスタマー・エンゲージメントの形成は儲かるのか?

最後に、エンゲージメントを高めることは、経済的側面からどうか?つまり儲かるかといった疑問も解明したいと思います。
ファストファッション業界では、上記4社を調査対象として取り上げていますが、会社の規模も異なり、非常に乱暴な比較ではありますが、ここでは、直近3ヵ年の売上伸び率にフォーカスして、カスタマートラストスコアとの関連性を検証しています。
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あくまで上記仕様による分析結果ではありますが、y軸:3年間の売上伸び率、x軸:カスタマー・トラストスコアとすると、両者には高い相関があると言えるでしょう。
今回明らかとなった相関性、実は、カスタマー・トラストスコアは業界や個別の企業によって、そのレベル感は異なりますが、銀行業界やカード会社でも同様の検証結果となったことを付け加えておきましょう。

次回、最終回の後編では、無印良品さんにも協力頂いた、実際の顧客の購買行動等を含めて分析結果をお伝えしたいと思います。