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都内在住ビジネスマン。CSV、サステナビリティ等に関することを 2019.5 Livedoor Blogから引っ越してきました。

ネスレ 受け継がれる創業の精神「すべてはミルクから始まった」ブックレビュー

全社員が何に価値を見出すか、これを支えるものとして考えられるのが、その企業の精神的支柱となる経営理念や創業の精神である。ネスレはロゴマークにもあるように、雛鳥を親鳥が優しく包む愛の精神をもとに、健康事業分野において発展してきた。(中略)2000年代に入ってからは社会的価値と経済的価値を両立させる共有価値、つまりCSV経営を主眼に置いている。

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マイケル・ポーター教授の提唱から遡ること5年前にその経営戦略を標榜した元祖CSV企業で、 世界最大の食品会社ネスレ。前任のピーター・ブラベック氏が掲げた、食品メーカーから「栄養・健康・ウェルネス企業」としての事業の再定義。

今回は、ネスレの企業経営を解説する今月発売の新刊「すべてはミルクから始まった」。

ビジネス書に見かける売らんかな主義とは対極をなす、歴史を丁寧に辿り、事実を誠実に伝える一冊でした。

 

●事業拡大の歴史はM&Aの歴史

全世界で32万人を擁する世界最大の食品会社、世界最大とはいっても、なかなかその全貌がつかみにくいグローバル企業。本書に記される日本の売上上位5社と比較したネスレの売上規模(いずれも2017年時点)は以下の通り。

  • ネスレ:10兆3,270億円
  • 明治:1兆2,408億円
  • サントリー:1兆2,340億円
  • アサヒ:1兆8,574億円
  • キリン:1兆8,637億円
  • JT:1兆1,397億円

国内でもおなじみのネスカフェやキットカット等のブランドはなんと1,000にも上るそう。そして、本書を読んで知ったのは、グローバル企業としての成長は、M&Aの歴史でもあったということでした。

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本書より

創業当時、自社よりも大規模なコンデンスミルクメーカーの買収から始まり、ペリエやキットカット、最近では、ブルーボトルコーヒーもネスレ傘下なんですね。

 

●なぜスイス発のグローバル企業か?

スイスの主なグローバル企業として、本書ではノバルティス、スウォッチ・グループ、チューリッヒ、アデコ等も紹介されていましたが、 なぜ、これほどまでの巨大グローバル企業がスイスから生まれているのか?

筆者の考察として、

・永世中立国であったため国にをまたぐM&Aが比較的やりやすかったこと

・スイスの人口850万人のうち、200万人以上が海外からの移民であること

・スイス人の傭兵が歴史的に周辺の国々を警護していること(フランス革命のルイ16世の時代から、今もバチカンの傭兵もスイス人との事)

等が挙げられています。興味深い見解が展開される詳細は是非、本書をご覧下さい。

 

 ●老舗企業のイノベーションの源泉

老舗企業にも関わらず、イノベーションの源泉となっているのが、ネスレ日本が社内で取り組む、新規アイデア創出を実践する「イノベーションアワード」の取り組み。

以前に、当時のステークホルダーリレーションズ室 冨田室長にインタビューの機会を頂きましたが、驚いたのは社内募集で集まるその件数。2018年当時のインタビューで、昨年は4,800件もの応募があったとのコメントがありました。

本書では、スタート当初からの応募件数がグラフで掲載されていました。

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本書より

そして、本書ではあまり触れられていませんでしたが、テレビCM等でもおなじみのネスカフェ・アンバサダーもイノベーション・アワードの成果との事。今では、20万人ものアンバサダーが存在し売上にも多大な貢献をしている様です。

当時のインタビューは是非、こちらからご覧下さい。

 

blog.members.co.jp

他にも、多様性や透明性を重視する経営、グローバルでネスレ日本の成長は、ジャパン・ミラクルと呼ばれていること、ネスレが2007年に定めた「行動規範」は、「考働規範」と定義していること、そして、もちろん元祖CSV企業として、フィリピンでのコーヒー豆栽培やインドでもミルク事業にも触れられていました。

 

グローバルでミネラル・ウォーター事業の覇権を握るネスレ、将来予測される世界的な水不足をCSVとしてどう解決するのか、期待してます。

 

すべてはミルクから始まった 世界最大の食品・飲料会社「ネスレ」の経営すべてはミルクから始まった 世界最大の食品・飲料会社「ネスレ」の経営