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都内在住ビジネスマン。CSV、サステナビリティ等に関することを 2019.5 Livedoor Blogから引っ越してきました。

地球温暖化は経済問題である 「気候カジノ」 ブック・レビュー

人間は、毎年大気中に二酸化炭素を追加排出するたびに、地球のルーレットを回している。回転が止まった段階で、その結果が有益なものか、莫大な損失を伴うものかを知ることになる。最初の賭けでは、ボールが黒のポケットに入れば二酸化炭素排出量は穏やかに増加し、赤のポケットに入れば急激に増加する。次の賭けで、二酸化炭素濃度が倍になったときに何が起きるのかが明らかになる。二酸化炭素濃度の倍増は、地球の平衡気温を3℃上昇させるかもしれない。だが、この数字の推定には大きなばらつきがある。(本書より)
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目を引くタイトルで、以前から気になっていた400ページを超えるボリュームの本書。経済学者により書かれていることもあって、読むのをちょっとためらってましたが、著書のノーベル経済学賞受賞をきっかけに、年末年始の自分に課した課題図書として、読み耽ったのが、今回取り上げたのが、「気候カジノ:経済学から見た地球温暖化問題の最適解」

日本語版の発行が2015年のため、前々回に取り上げた「HOPE」と比べると、再生可能エネルギーに対するコストの問題等、少し内容が古く感じられた箇所もありましたが、あらゆる可能性を追求し、気候変動要因の温室効果ガス否定論等の様々な立場の意見等も踏まえ、中立公平な立場で淡々とロジカルに現状の課題とその解決策が展開されている読み応えのある一冊。
今すぐ温暖化抑制につながる取り組みに各国が協力して着手しないと手遅れになるということが、身をもって体感することができました。

●経済問題として捉える

地球温暖化の要因、つまりCO2の排出は、人間が作り出したものであり、その課題解決には自然科学ではなく、社会科学の領域であるということ。
もちろん人間の生活や経済活動以外にも科学的に証明されていない要因もありますが、今確実に言えることは、CO2排出の抑制しないと取り返しのつかない未来が訪れるといくこと。

最も有力な説によれば、今後100年間で人々に直面するであろう世界の気候変動のスピードは、この5000年間で人類が経験してきたあらゆる変化の約10倍だという。したがって今日の温暖化は、地質年表上では初めてのことではないものの、人類文明史においては前例がない。

そして、地球温暖化の人間社会にとってもっともやっかいな問題として指摘するのは、その問題が「外部性」にあり、それば地球規模であること、そして、化石燃料の使用等、世界の人々の日々の活動から生じていることを指摘しています。

「外部性」とは、CO2を排出する人がそのコストを負担することもなければ、CO2排出によって何かしらの被害を被った対象者がその代償を受けることもないということ。

我々がレタスを買うとき、生産の過程で生じたコストを支払い、農家と小売業者は労働の対価を得る。
しかし、レタスを生産する過程で、畑に撒く水を汲み上げる、あるいは運搬用トラックに燃料を供給するといったかたちで化石燃料を燃焼しなければならない場合、ある重要なコストがカバーされていないことになる。排出された二酸化炭素によって生じる損失だ。
こうしたコストは市場取引の外にある(すなわち市場取引に反映されない)ため、経済学者たちの間では「外部性」と呼ばれている。外部性は、第三者に損害を与える、経済活動の副産物だ。


●経済学者が示す3つの対応策

では、取り返しのつかない未来としないために、私たちが出来ることは何か?
本書では、
  • 適応策
  • 気候工学
  • 緩和策
の3つが示されています。

○適応策:温暖化を阻止しようとするのではなく、そうした世界と共存することを目指すことで、人間システムや他の生物システムにもたらされる気候変動の負の影響を、回避または緩和するために行う調整のこと。
農作物の種蒔きのタイミングを変えたり、灌漑システムの導入やエアコンの設置等によるもの。
しかし、その対策は、コストが掛かり、気候変動の要因であるCO2排出抑制は行っておらず、長期的な危機の回避には繋がらず、あくまで補完的な対策としている。

○気候工学:最新の技術を使って、地球の物理的、化学的性質に干渉することで、地球温暖化を抑制したり、阻止したりすること。課題は、費用と便益とのバランスシートは複雑で、危険な副作用のリスクも指摘されているとの事。

○緩和策:長期的視点にたって考えた時の真の解決策としている。つまり、二酸化炭素の濃度を低下させること。そして、CO2排出削減への主なアプローチとして、以下4つが示されています。

・全体的な経済成長を抑制する
・エネルギー消費量を減らす
・財やサービスの生産における炭素集約度を低下させる
・大気中から二酸化炭素を取り除く

●気候変動抑制の政策

前述の3つの対策のうち、最も効果的とするのが、二酸化炭素の排出を抑えること。では、排出を抑えるためにはどうしたら良いかという疑問に対しては、以下2点を提示しています。

二酸化炭素に税金を課す「炭素税」を導入すること
○企業に二酸化炭素を排出する許可証をもつことを義務づけ、排出権を制限し企業間で取引できるようにすること

どちらも炭素価格の引き上げという同じ経済目標を達成する。(中略)これらが温室効果ガスの排出という外部性に市場価格をつけるための方法であり、実のところこの二つ以外の選択肢はないという事実を認識しておくことは、非常に大切だ。

さらに本書では、炭素税の適正な価格設定や、炭素税と企業間取引の共通性や相違点、両者を組み合わせたハイブリッド制度等が提示されますが、詳しくは本書をご参照下さい。

●間もなく消滅する巨大湖

ここで、本書冒頭に示される二つの湖のエピソードに関わる映像コンテンツを紹介しましょう。

かつては世界で四番目に大きさを誇った中央アジアカザフスタンウズベキスタンにまたがる湖。90年代から年々湖の面積は減少を続け、Wikipediaによれば、2020年には干上がるという説もあるほど。
湖が干上がる環境問題はもちろん、地域の住民は、健康被害、児童労働、フェアトレード問題といった様々な社会問題が引き起こされています。

以前、私が運営に関わっていたGreen TV Japanのでも取り上げた、アラル海を舞台としたドキュメンタリー映像も是非ご覧下さい。

<消えたアラル海~純白の黄金(5′21″)>
 

最後に、地球温暖化懐疑派に対しての印象的な著者のコメントを紹介しましょう。

地球温暖化論が正しい可能性は非常に高い。我々は95%の確信しかもてないかもしれない。だが、それば100%になるまで待つことはできない。なぜなら、経験科学の世界では、絶対的な確信に達することは絶対にないからだ。それに、100%の確証を得てからこの問題を食い止めようとしても、そのときはもう手遅れである。