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都内在住ビジネスマン。CSV、サステナビリティ等に関することを 2019.5 Livedoor Blogから引っ越してきました。

仮説創造のための見立てる力 「デザイン思考の先を行くもの」 ブック・レビュー

星新一手塚治虫が描いた未来:彼らは未来を予知したわけではない。彼らは極めて個人的に「こうしたい」と思う未来を描いただけである。そして彼らの作品に影響を受けた子どもたちが、大人になって大企業に入り、エンジニアとして「あの頃の未来」を形にしているだけなのだ。(本書より)
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本書は、イノベーションを起こす上で、一番重要なのは、「個人の見立てる力」と断言する、ハーバード・デザインスクールで教える事業創造のメソッドをまとめたもの。

全体を通して感じたのは、一般的なビジネス書にありがちな冗長的な記述はほとんどなく、クールな書面デザインと端的な文章。基本的に見開きページの左側は、黒背景で、伝えたいキーワードやグラフィック、画像データ。右側は、短めの分かりやすいシンプルな文章で構成されています。
また、特徴的な事は、方法論の提示だけでなく、「個人の見立てる力」を養うための著者自らが実践するトレーニング方法や、企業人として、「個人の見立てる力」をどう組織に浸透させ、社内の承認を得るための効果的なプロセスまでが明記されていること。

大学の建築学科を卒業後、電通でコピーライターやCMプランナーに従事、2017年にハーバード大学デザイン大学院で都市デザイン学修士課程を修了し、現在の肩書きは、株式会社 SEN 代表、建築家、コピーライターの著者による、思考プロセスを整理する上でも実践的な一冊でした。


●「個人の見立てる力」とは?

筆者がハーバードで学んだこと、それは、
世の中を変えるような革新的なアイデアは、アイデアを最初に思いついた人の極めて個人的な主観や見立てに基づくべきであり、そうすることで他者には容易に理解できないシークレットなものが生まれるであろうというこである。

つまり、イノベーションを起こす上で、「個人の見立てる力」こそが、一番重要な要素としています。

見立てる力とは何か?それは、ふつうの人から見れば全く関係のないふたつの異なるものも、それぞれをシナリオまで抽象化して捉えることで、同じ土俵で結びつけることができる能力。としています。
では、「個人の見立てる力」を磨くためにはどうすれば良いか?
その回答こそが、本書での実践的な内容と言えるでしょう。そのトレーニング方法は後程ご紹介しましょう。

また、冒頭で日本でのデザインというキーワードの捉えられ方への違和感を述べられています。一般的に日本でデザインといえば、クラフィックデザインや服飾デザイン、絵心やセンスに関することになりますが、デザインとは、新しい視点を提供すること、新しい課題を発見すること、それこそがデザインとしています。
そして、著者が捉える」デザインセンスとは、「不便と感じる頻度」としています。常に問題意識や当時者意識を持ち、自らが考え疑問を持つこと、そうしたことを常に意識することは、イノベーション創出の源泉にもなると言えそうです。


●デザイン思考とハーバード・デザインスクールで学んだこと

本書では、デザイン思考は、0→1を生み出すイノベーション創出のツールではなく、仮説検証のためのツールとしています。

デザイン思考とは、1を改善し、10に磨き上げるための仮説検証ツールであるとしています。
PDCAを回す」という言葉があるが、デザイン思考においてそれを「プロトタイピングを回す」という。すなわちデザイン思考とは結局、「消費者の求めるものを聞いてPDCAを回す」ことなのである。

イノベーションを起こすため、つまり、0→1に重要なものとは、それが前述の「個人の見立てる力」というわけです。さらに、見立てる力は、「革新したいこと」に対して、「異分野の専門知識」か「パッションを持っていること」を掛け合わせることで構成されるとしています。さらに、本書の後半で示されるのが、「社会の潮流」 。

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(本書より)

その時代・場所・ターゲットを取り巻く「社会の潮流」を加味することで、個人的な見立てによる参入障壁の高いシークレットなアイデアでありながら、社内に広がっていく確度の高い事業を創造できるのだ。


●個人の見立てる力を鍛えるには?


冒頭で本書をとても実践的であると紹介していますが、著者も実践する具体的なトレーニング方法として、以下の4つが紹介されています。

○エクササイズ1:ロールプレイング法

わかりやすく言えば、なりきり法と言って良いかもしれません。
例えば、アンパンのCMアイデアを考える時に、ユニクロがアンパンのCMをつくったとしたら? と考えること。
設計対象の敷地を見て、コルビュジェだったら、安藤忠雄だったら、フランク・ロイド・ライトだったらと考えること。
そして、自分の会社の社長がユニクロの柳井氏に変わったら、最初にどんな経営方針を打ち出すかを考えること

そして、この方法に重要なことは、「なりきり」に慣れるためには、多くの引き出しを持つこと、つまり知識量が全てであるとしています。

○エクササイズ2:因数分解

異分野のキーワードとの関連性を見つけること、そして、関連性を見つけるためには、あらゆる物事を因数分解して認識していく習慣をつけること。
新しい傘のアイデアを考える時に、物理的な因数分解の考え方であれば、手に持つ「柄」、鉄の「軸」、雨をよける「膜」の3つのパートに因数分解をすることとしています。


○エクササイズ3:ウォーリーを探せ

子どもから大人までお馴染みの絵本、「ウォーリーをさがせ!」 その絵本では、複雑な漫画風イラストの中からウォーリーを探すミッションを与えられるわけですが、料理レシピ本を、絶対に建築を学ぶという観点で読んだら、映画を学ぶという観点で読んだら・・そうした著者自身の自身の実例が紹介されています。
脳に特定のミッションを与えておくと、すべての情報の中から脳がミッションに関連した情報だけを自動的に抽出し、まるでミッション達成をサポートする要素のように「見立て」てくれる


○エクササイズ4:ルーツトラッキング

最後の4つ目は、物事のルールをひたすら辿っていくという訓練。
著者自身が、病院建築のデザインを考えていた時に、HOSPITALの語源を調べると、おもてなし、休憩所、寮など言葉があり、HOTELと同じルーツを持っていたことを突き止めたこと。
ここでは、語源を辿ることにより、関連性のある建物が施設が浮かび上がり、デザインのアイデアが広がっていったといくことが紹介されています。


○自己中心デザイン トレーニング法まとめ

未来を現在の延長と捉えるのではなく、まず自分が個人的にどういう未来にしたいか、という願望を研ぎ澄ましていくこと。現在、この世界になにが必要になるか。そればデザインすべき答えであること。
デザイン思考は、ユーザーへのヒアリングや観察調査によって他者に課題を見出す「他人中心デザイン」であったのに対して、ハーバードのは「自己中心デザイン」と呼べるかもしれない。



●未来を作ることとは?

最後に、本書の中で紹介されている印象的なトピックと、著者が定期的に読み返す2冊の本を紹介しましょう。

<印象的トピックス>

・著者が学んだハーバード大学の設計製図の授業には、NASAのスポンサーがついて、修了設計のテーマは、「50年後のNASAの働き方をデザインして下さい」

・東京とロンドンを拠点に世界で活躍するデザイン・イノベーション・ファーム Takuramが、「荒廃した未来の世界における水筒」がテーマのアートプロジェクトで提示したものは、体内で水分が循環し、喉が渇かなくなるよう設計された人口臓器

<定期的に読み返す2冊の本>

ドラえもん最新ひみつ道具大辞典
・超発明:真鍋博