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都内在住ビジネスマン。CSV、サステナビリティ等に関することを 2019.5 Livedoor Blogから引っ越してきました。

徹底した平等主義と顧客主導によるIT立国の実現 「エストニアで見つけた つまらなくない未来」ブックレビュー

エストニアが実現したのは単なる電子政府ではない。独立後、人もお金も資源もない中で、それまでにない発想をもってして、IT立国を実現したということだ。(中略)技術を生かし、情報と権力を集中するという「中央集権化」は行わず、情報を「分散化」させ、個人に情報コントロール権を与えるという逆転の発想でもって、国民をより豊かに、より自由にしたのである。(本書より)
エストニア

九州程度の面積に青森県と同等の約130万人が住む北欧の国、エストニア

スカイプが生まれた国で、EU諸国のオフショア拠点の役割も果たし、もともとIT技術者が多い様ですが、なぜこの北欧の国がIT立国として、先進的な電子政府を実現することができたのか?
その秘密を探り、現地取材によりまとめ上げられたのが、本書となります。

「ドヤ顔でエストニアに行ったら、浦島太郎だった」 という、監修者である孫泰蔵氏のコメントが本書の帯にコピーとして書かれていますが、その電子政府の仕組みは、日本人としてうらやましい限り。マイナンバーカードが浸透しないのも、どこぞやの行政機関の文書改ざん問題も、エストニア電子政府の仕組みなら一気に解決しそうというのは言いすぎでしょうか。

本書は、エストニアが実現する政府や国民、産業、教育のデジタル化という、つまらなくない、ワクワクする未来のテーマにしていますが、読後、日本の将来に対して悲観的な気分になってしまったこと、そして、セキュリティ担当大臣があれではマズイことを確信しました。


電子政府を支えるX-Roadと不正利用への厳罰化

・ハンコやサインはなくて、行政書類も民間の契約書類も電子署名でペーパーレス化が実現
・子どもが生まれると病院がオンラインで国民登録を行い、出生のタイミングで国民IDが付与
・行政手続きの99%がオンラインで実現、納税や選挙も全てオンライン
等が既にエストニアでは実現していること。

ちなみにオンライン手続きが出来ないのは、不動産の売却と結婚・離婚の届出との事。不動産は金銭的に大きな決断が必要なこと、結婚・離婚は一時的な感情で早まらない様に。
オンラインで手軽に手続きが出来るがゆえ、人間臭いところを残して自らが障壁を設けているのが興味深いところです。

全てが電子化されると便利そうだけど、セキュリティは大丈夫か?といった疑問に対して、それを解決しているのが、セキュリティ対策のために導入しているブロックチェーンの技術。データが改ざんは、リアルタイムで検知するそう。

そして、こうした電子政府の仕組みを支えるのが、X-Roadと呼ばれる、分散型のデータ交換基盤システム。
xroad
本書より

エストニアの起業・情報技術大臣によれば、X-Roadは、「いかなる組織や情報システムの間においても、安全な形でデータを送信、ならびに交換することが可能で、安全にデータを保管できる」 仕組み。

世界的にも珍しいのが、通信会社や銀行等の民間企業もこの仕組みに参加しD/Bをつないでいること。個人に付与されたデジタルIDにより、その手続きのほとんど全てがオンラインで実現できるその仕組みをつくり上げているのが、X-Roadというわけです。

では、先程のセキュリティ問題と併せて、プライバシー情報はきちんと守られるのか?
それを担保しているのが、電子政府の登録情報を確認するマイページの様な機能。その専用ページで、すでに登録されている個人情報を本人が参照できるのはもちろん、それらの情報が、いつ、誰によって利用されたか?というログ情報を本人が確認できる機能を持ち合わせします。そして、他人の登録データにを不正にアクセスしたり、利用した場合は、厳罰に処されるという事。

専用サイトでは、いつどの情報を利用したのかの記録を見ることができる。つまり、自身自身で「情報をコントロールする権利がある」と実感できることが重要なのだという。政府はその権利を国民に渡したのだ。

あくまで主権は国民に、データ管理も透明性が確保されていることが理解できます。日本でマイナンバーカードがなぜ浸透しないのかが、よく理解できます。


●人口減少国家の切り札 「イーレジデンシー」

IT先進国のエストニアでも日本同様の社会課題を抱えています。それが少子高齢化により、今後人口減少社会を迎えること。

その解決策が、エストニアの仮想住民になれるイーレジデンシーというわけです。
仮想住民のメリットは、
エストニア電子政府を世界中どこからもで体験できること
電子署名が使えること
・オンラインで法人設立ができること

日本からも、100ユーロを支払えば、10分程度で申し込みが完了し、1ヶ月後、エストニア大使館に呼ばれ、デジタルIDカードが提供されるとの事。

エストニアが狙うのは、ITを利用した産業の育成であり、国境を越えて活躍する「頭脳」を集めることだ。エストニアでIT人材が不足していることもあって、世界中で活躍する高度がIT人材、とりわけ「デジタルノマド」とも言われる人々をターゲットとしている。

エストニアの仮想住民になってエストニア企業の求人に応募、採用された場合、仮想住民は電子政府のサービスが使えるため、雇用契約や税務手続きなどが簡単に済ませることができるということ。人口130万人の国家が、仮想住民1,000万人の目標を掲げ、今年からは、世界中で活躍するフリーランスに、1年間の居住許可を与えるデジタルノマドビザ制度のスタートも予定されている様です。


その他、本書では、ITが進化し、会計士や弁護士の仕事がどう変わったか?そうした時代を迎え、子どもたちへの教育はどうあるべきで、どんな取り組みをしているか等にも触れられています。残念な日本のことは少し忘れて、エストニアのワクワクする未来を覗いてみませんか?

最後に、1969年生まれ、ケルスティ・カリユライド女性大統領のメッセージを。
『私たちの取り組みのすべては、「顧客主導(カスタマードリブン)」によるものです。エストニアの国民とエストニアの企業が主導しています。エストニア政府が持っているのは、独自のデジタル国家とそのサービスを「更新していく」という計画のみです。』