Marketing They Are a-Changin'

都内在住ビジネスマン。CSV、サステナビリティ等に関することを 2019.5 Livedoor Blogから引っ越してきました。

究極の差別化戦略とは? 「ぷしゅ よなよなエールがお世話になります」 ブックレビュー

個性を伸ばし、出る杭をどんどん伸ばし、同時にチーム化を進めると、常識を超えた企業文化が生まれます。この企業文化はイノベーションを起こします。イノベーションは、究極の差別化です。差別化の先には、競争のない社会があります。(本書より)
yonayona

3年前に高校の同級生が市ヶ谷にオープンした、クラフトビールと点心のお店無添加で全て手作りの点心メニューと全国のクラフトビールが楽しめる店なんですが、そこで知ったのが、クラフトビールの個性的な美味しさ。
今ではすっかり、家飲みビールは、ホップの効いたIPA系ばかりとなってしまいました。

現在、日本にあるクラフトビールメーカーは、約140社。30年前の地ビールブームの頃と比べると半分程度になってしまった様ですが、最近はクラフトビールを出す飲食店も増え、新しいビールのジャンルとして定着した感があります。
アメリカでは、マイクロ・ブルワリーと呼ばれるクラフトビール会社が2,700もあり、売上自体もビール市場全体の10%を超えているそうです。日本は、大手4社に次ぐ、国内シェア5位のオリオンビールが1%程度。日本のビール市場ももっと多様化が進んで欲しいものです。

さて、今回のブックレビューは、よなよなエールで有名なヤッホーブルーイング(以下、ヤッホー)「よなよなエール愛の伝道師」 井手社長の著書。

本書の内容は、自然豊かな場所で働きたいという理由から、ヤッホーに転職し、差額の弁当代まで要求していたごく普通の社員が営業部門のリーダーから、会社のトップになり、ネット販売やイベント等を通して、試行錯誤しながらも売上を伸ばし、成長していくという話。ある時点からスイッチが入り、なんでも貪欲に吸収しようとする、井手社長自身の成長記であると言えます。

ヤッホーのビールを飲んだことがなければ一度は口にしたいと思うし、一度でも飲んだことがあれば、絶対にヤッホーのファンになってしまう、井手社長のお人柄に共感し応援したくなる、そんな本です。

ヤッホーの会社の歴史を辿り、星野リゾート社長やその当時の上司との生々しいやりとり等、まさに実録本と言えるエピソード満載の内容のため、レビューとしてまとめるには、紹介しにくい内容なんですが、いくつかのポイントを。
ちなみに、ヤッホーは、星野リゾートが立ち上げた会社であることはこの本で始めて知ることになりました。


●まじめにこじらせよう、真剣にふざけよう!

このフレーズは、ヤッホーが出店している楽天のショップ・オブ・ザ・イヤー表彰式の受賞の際に、毎回仮装をして参加していることから。
ヤッホーは、楽天ECサイト事業をスタート時期から入店する老舗ショップでしたが、しばらくは、人手も足らず、ネットショップは開店休業状態。ある商品をきっかけとして、ネットの売上が急成長を遂げることになり、表彰式登壇の常連となります。
最初は眉をひそめられた仮装も回を重ねるごとに名物となり、楽天の社員からも喜んでもらえるまでになったというエピソードが紹介されています。

「真剣に、誰も止められないくらい真剣にやっていれば、奇異に見えても、怒る人はそうはいない」 ということです。いやむしろ、応援に変わる場合するある。

小さなビールメーカーだからこそ、目立ってなんぼ、面白いと思ってもらえることを起点とするヤッホーなりの戦略です。何でも愚直に続けることは重要です。
また、楽天 三木谷社長の社長室には、楽天ECサイト オープンの時から出店するヤッホーに敬意を称して、以前より、よなよなエールが置いてあるそうです。素敵なエピソードですね。


よなよなエールを飲むことによるベネフィット

ある縁で知り合った、中央大学ビジネススクールマーケティングの田中洋教授から、井手社長はある時、よなよなエールを飲むことによるベネフィットとして、以下「効果」を5つのポイントとして示されたそうです。

・共感する
・理想像の実現
・自己確信
・癒される
・仲間をつくる

ビールそのもののことを全く触れてないのが興味深いですね。

共感や仲間をつくるということでは、本書でも触れられているヤッホーが主催する年に一度のよなやなエールファンの集い「超宴」。
サイトを見ましたが、野外フェスの様な盛り上がりで驚きです。
超宴
商品を買ってくれるファンに、イベントにも参加してもらってコミュニティーを創り、共感を高める。これって以前にこのブログでも紹介した無印良品カスタマー・エンゲージメントの可視化と構造化に挑む(MUJI事例 完結編))と通じるものがあります。

以前、良品計画さんにも協力して頂いた調査によれば、以下の4つの顧客セグメントでは、1から2、3になるにつれて、つまり、より参加性や良品計画への関与度が高まることによって、来店頻度や購買金額が増えるという調査結果が出ましたが、両社の取り組みは共通してますね。

1.アプリ参加→MUJI passportの登録
2.SNS参加→FacebookInstagramでの共有
3.イベント参加→イベントやワークショップへの参加
4.共創参加→IDEA PARKへの参加

本書では、手作りでのイベント企画と運営の実態が書かれていますので、是非、本書をご覧下さい。


●世界平和を目指す企業ミッション

ヤッホーが増収増益を継続し、今も成長しているその源泉は、本書の後半で述べられるチームビルディングにあると言えるでしょう。その中でも、印象に残ったのは、企業ミッションに触れている箇所。
企業ミッションを理解し、賛同する社員が一体となってチームを作り、目標に向かって進むことがいかに重要か。ビジョナリー・カンパニー流に言えば、「誰をバスに乗せるか」ということ。

ミッションやビジョンなどの経営理念を示し、独自色をだしていくと、どうしても、その方向性に同意できない人が出てきます。
それはそうです。僕が社長になるまでは、経営理念などはなく、ITのスキルがある、といった能力次第で人を雇っていたからです。彼らが悪いわけではありません。でも、僕が頑張って僕らの目指す姿を伝え、周囲が変わっていくに従って、一人、また一人と会社を去っていきました。(中略)逆に、新しい経営理念に共感してくれた人や、なんとかそれを理解して一緒に歩んでいくことを選んでくれた人は残ってくれました。

こうした取り組みが企業文化を生み、イノベーションを起こすという、冒頭で紹介する、究極の差別化の話へと繋がるわけです。
ビールの味は似たものを真似されてしまうかも知れませんが、企業文化やファンが感じるよなよなエールの世界観を真似ることができません。企業文化を確立し、顧客から共感を得て、顧客との共創は、競争のない世界を作るというわけです。

以下、ヤッホーの企業ミッションと企業文化、ヤッホーバリューは以下の通り

・企業ミッション:「ビールに味を! 人生に幸せを!」
・企業文化:「フラット」、「究極の顧客志向」、「自ら考え行動する」、「切磋琢磨する」、「仕事を楽しむ」、「知的な変わり者」

・ヤッホーバリュー:「革新的行動」、「(造り手の)顔が見える」、「個性的な味」



先程登場した、田中教授のアドバイスで、ヤッホーが徹底的に調べたのが、アメリカのバイクメーカーのハーレー・ダビットソン。
国や業種が違っても、業界での立ち位置やその存在感は共通点があると言えるでしょう。
近々、ハーレー・ダビットソンを題材とした本をネタにレビューをアップしようと思ってます。

ビールやビール造りへの愛情溢れる、本書巻末の付録 「今夜から使える エールビールの楽しみ方」 もオススメです。