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都内在住ビジネスマン。CSV、サステナビリティ等に関することを 2019.5 Livedoor Blogから引っ越してきました。

価格のつかない自然を正当に評価する

自然資本を経済学が本気で研究対象にすることがなかったのは、自然は無限であるという根拠のない楽観論が支配的だったことに起因している。(「自然資本経営のすすめ~持続可能な社会と企業経営」前書きより)

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photo credit: Israel Nature Photography by Ary

今回は、前々回のBIG PIVOTを読んで刺激を受けて、改めて読み返した「自然資本」に関する本「自然資本経営のすすめ~持続可能な社会と企業経営」についてをお伝えしたいと思います。
BIG PIVOTで繰り返し述べられていた、「いよいよ資源が足りなくなるから・・・」の話です。

この本を手にするきっかけになったは、著者の谷口さんとは10年位前に仕事を通してお付き合いをさせて頂き、出版に合わせて、本を頂く機会に預かったこと。この場を借りて、改めて有難うございました。

まずは、著者の谷口さんの紹介をさせて頂きます。

谷口さんは、1960年 小野田セメント入社後、秩父小野田株式会社や太平洋セメントの役員を歴任、ジャーナリストとしても活躍し、資源や環境問題に関する書籍を執筆される傍ら、現在は、京都大学経済学研究科 共同研究講座特任教授も務められています。自ら絵も描かれ、以前は銀座で開催されていた個展にもお邪魔させて頂きました。

地球上の資源は有限である

この本で述べられている事は、地球上の資源は有限であり、今の経済活動や経済学は、そうした考えが全く考慮されていない事、そして、有限である地球資源を前提とした新しい社会・経済システムの構築が必要である事と言えます。

鉱物資源の開発に長年携わってきた谷口さんだからこそ述べられる世界中で起きていることを人類史や文明論から紐解く内容はとても説得力があるものでした。それは、科学技術への否定やノスタルジックな感傷論に陥らず、新しい経済活動のフレームワークをまさに、地球規模の視点から様々な提言が述べられています。
また、そうした提言は、自動車産業がグローバルでの販売台数を競う経営から最適なモビリティを提供するための経営へのパラダイムシフトが求められている事など、素材産業や流通業等、個別の産業界へも向けられています。

以下、そうした提言の中から、とても興味深く共感できて印象に残った点をここでは2点程取り上げます。

メロン・スライス・セオリー

メロン・スライス・セオリーとは、なかなか解消しない南北問題を地球を縦に4分割して、ブロック内の北側先進国が南側の開発途上国の社会・経済の問題解決を行う、自由主義経済のグローバリゼーションから、南北問題を重視したローカリゼーションを進めること。
地球規模での取り組みは、フードマイレージバーチャルウォーター、物流コストや温暖化ガス排出の削減にも寄与することが理解出来ます。京都大学自然資本経営論講座では、こうした新しいフレームワークでの経済活動による自然資本への影響をシミュレーションする取り組みも行われている様です。

産業生態系

自然の生態系の中に廃棄物という概念はなく、自然界では、動物・植物・藻類・菌類・バクテリア等が相互依存関係にあり、人間界の廃棄物に相当するものはない。このことを産業界に置き換えて、産業生態系とは、ある産業で発生した廃棄物は他の産業で再利用するネットワークを作るという考え方。


P.186 図表
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日本の火力発電所が全てセメント会社と繋がっていることをこの本で知りましたが、こうした取り組みを産業界全体で考えることは、資源枯渇を緩和する一つと回答と言えます。

知的好奇心を刺激し、ビジネスパーソンとしての教養も深まる一冊、
読了後は、Think Globally、 Act Locally のフレーズが思い浮かぶことでしょう。