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都内在住ビジネスマン。CSV、サステナビリティ等に関することを 2019.5 Livedoor Blogから引っ越してきました。

エンゲージメントにより同じ船に乗る~社会を変える投資 ESG入門 ブック・レビュー

これまで市場の拡大を背景に「資金」の増大だけ=利益の最大化を目指してきた企業にとっては、自分たちの活動を取り巻くより多くの人、社会への影響を考えなければ、ビジネスを長きにわたり続けることがかなわない世の中になったのです。(本書より)
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パリ協定やSDGsの採択等、企業はこれまで以上に、あらゆるステークホルダーとの共創やサステナブル経営が求めらる時代となりました。今回は、フランスに本拠地を置く、運用投資会社 アムンディ・ジャパンの有志によるESGの入門書を採り上げました。投資の実務者がわかりやすくESGを解説したビジネスパーソン必読の一冊です。

ESGが注目される背景や歴史

第一章 ESGで何か変わるか、第二章 ESGとは何か では、ESGが世界で注目される社会的背景から、グローバルで企業や投資家が求められていること、そして、企業経営にとって、ESGは、これまでのCSRの様に義務感ではなく、経営戦略として企業価値を上げるために必要なことであることがわかりやすくまとめられています。

SRI(Socially Responsible Investment:社会的責任投資)やPRI(Principles for Responsible Investment:責任投資原則)、国連グローバルコンパクトやISO26000、GRI(Global Reporting Initiative)等の解説やESGとの関連性や、最近の国内上場企業の統合報告書の発行状況等、これまで個々のキーワードや断片的な知識が、歴史的な流れやダボス会議で討議されている重要テーマ、そして、アムンディが特定するESG分析の基準等とともに、理解を深め整理することができました。

ESGへの目標表明の場としての統合報告書とESGと株価との関連性

第三章では、GRIを基準に作成されることが多かったCSRレポート、サステナビリティティレポートから、統合報告書の必要性や、企業に求められることを、これからの「良い会社」として整理しています。

KPMGジャパンの調査によれば、2018年2月現在、東証一部上場企業のうち、統合報告書の発行企業は、317社、割合にすると15%程度に留まるそうですが、時価総額に占める割合は、51%。
ESGが求められる背景が、地球規模での要請であるため、規模の大きなグローバル企業ほど、その発行が進んでいることの証と言えるでしょう。

本章の最後には、ESG情報が株価に与える影響に関しての東京理科大 教授やアムンディ・ジャパンの分析が示されます。残念ながら、いずれも一貫した関連性は見出せないとうのが結論でした。しかし、あくまで、環境、社会、従業員、人権、腐敗防止等、有価証券報告書における財務情報の様に、全ての企業が同じ尺度で開示することが難しく、定性的な情報も多く含まれるもの。投資家や生活者の一層の意識の変化により、社会の要請として、そうした情報の統一化や開示の積極性が求められる社会への変化していくことでしょう。

投資家の立場からのESGとその未来

第四章の、投資で社会を良くする は、投資家の視点から、世界のESG市場や投資の種類等が述べられます。興味深かったのは、日本でのESGのあり方。

運用会社等の投資家は、上場株式を「銘柄」と呼ぶことに現れているように、株式をあたかも投機対象の「商品」かのように扱う傾向が長年見られました。(中略)いずれにしても、日本においては上場株式が投機的な取引対象とされる傾向は色濃く、長期的な経営を標榜する日本の企業経営者は投資家からの関与を嫌がることが続いたのです。(本書より)

また、目先の短期的な収益を確保しがちな投資家と企業経営層が「同じ船に乗って」協働しするエンゲージメントが重要とのことですが、今後益々、先程のESGと株価との関連性の実証が重要となることでしょう。

最終章では、ESGの未来として、投資を行う上でのESGをいかに投資プロセスに取り組むか、投資家と企業とのエンゲージメントつまり、「同じ船に乗る」こと、そして、「ファスト・インベストメント」から、「スロー・インベスト」への転換が必要との事。

本書の最後に示されるのは、一橋大学 伊藤教授を座長とする経済産業省のプロジェクト 伊藤レポート最終報告書「持続的成長への競争力とインセンティブ―企業と投資家の望ましい関係構築」からの一文でした。

「国富の形成や資本市場の豊かさ、そして企業の持続的な企業価値創造は、インベストメント・チェーンを構成する各プレーヤーが成熟しており、価値創造に向けて効率的に行動することの集積として実現する」

日本にもESGが浸透し、発展していくためには、誰が船に乗っているか、つまりスロー・インベストエントへの価値転換を理解できる成熟した新しい水夫と乗客が求めれると言えそうです。