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都内在住ビジネスマン。CSV、サステナビリティ等に関することを 2019.5 Livedoor Blogから引っ越してきました。

顕在化する新しい社会課題 「クジラのおなかからプラスチック」 ブックレビュー

 プラスチックをどのようにリサイクルすればよいのか。プラスチックをできるだけ使わないようにしたとき、かえってむだやごみが増えるのではないか。どうすれば資源の節約になり、しかもプラスチックごみで汚れていない地球でくらすことができるのか。プラスチックは、わたしたちの生活に深く入りこんでいるだけに、さまざまな社会の問題とも結びついています。

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2016年のダボス会議で示された驚くべき数値。それは、このままの状況が続けば、2050年には、海のプラスチックの量は、重量ベースで魚の量を超えるというもの。
つい最近では、人間は1週間で約5g、つまりクレジットカード1枚分のプラスチックを摂取しているという、国際NGO WWFのキャンペーンが開始されました。

yourplasticdiet.org

現在大阪で開催中のG20サミットでも主要なテーマの一つとして挙げられる海洋プラスチックごみ問題。最近、グローバルでの社会課題として注目される新たな環境問題と言えるでしょう。

 

以前に紹介した岩波ジュニア文庫の本が期待以上だったため、今回紹介するもの、も恐らく中高生位を対象に書かれた海洋プラスチックごみ問題に関する本。
※以前の記事はこちらから
 難解のことを分かりやすく伝えることの重要性を改めて学んだ一冊でした。
 
●世界から非難を浴びる日本
まずはじめに多くの日本人に知っておいて欲しいこと、それは、日本はこの問題に対して、世界中から前向きでないと思われていること。
今から遡ること約1年前、カナダで開催されたG7サミットで世界の国々が署名した、海洋プラスチック憲章。その内容は、2030年等の近い将来の年度を区切り、プラスチックに関する削減目標の具体的な数値を掲げていることが特徴的と言えますが、アメリカと日本はこの憲章への署名を見送りました。

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本書より

また、2018年10月に発足された「New Plastics Economy Global Commitment」では、プラスチックの削減を目的に、既に400以上の企業や自治体、団体等が署名をしていますが、今のところ、日本からの署名はゼロ。
地球温暖化に対するアメリカのスタンス同様に、プラスチック問題にやる気がない国と思われている日本。G20 でも取り組み内容や削減目標が定められる様ですが、これまでの世界的な動きにも鈍感な日本が、G20のホスト国としてこの問題にどうリーダーシップを発揮できるのか?注目です。
 
●リサイクルとは程遠い日本の実態
日本のプラスチックリサイクルの現状はというと、本書によれば、2016年に排出されたプラスチックごみ899万tのうち、約8割がリサイクルされているということ。しかし、実態は、新たなプラスチック製品として生まれ変わったのではなく、燃やして熱を利用している、つまりプラスチックごみを有効に再利用しているということ。
普段、可燃ごみ、不燃ごみ、プラスチックごみ等に分別してごみ出しをしている立場からすると違和感ありませんか?
また、最近では、中国やインドネシアがペットボトル等のプラスチックごみの受入れを行わないことを表明していますが、日本からのプラスチックごみが海外で処理されていることを知るきっかけとなったニュースでした。
 
●科学的に解明できていないマイクロプラスチック問題
 マイクロプラスチックとは、5mm以下のプラスチックの粒子のこと。そうした小さなプラスチックの破片が粒子として海中に拡がれば、海の生き物が摂取して・・先程、WWFのキャンペーン内容となるわけです。
本書では日本で捕れたカタクチイワシやイギリスで販売されるムール貝から見つかったマイクロプラスチックが紹介されていますが、ちょっと衝撃的な数値でした。そうした海産物を食べる人間に今後どの様な影響があるのか・・
また、マイクロプラスチックができる仕組みを本書ではイラストでも分かりやすく説明していますが、まだまだ科学的に解明されていないことも多く、本気で未来を変える時期に来ていることを実感しました。
 「市民」には、おおきく分けて二つの意味があります。一つは、「その市に住んでいる人」という意味です。(中略)もう一つは、「自分が暮らしている社会について、さまざまな人の立場になってきちんと考える人」という意味です。

 

最後に・・、小学生の頃は、母親がかまぼこの板で作ってくれた「保坂研究所」という札を自分の部屋の入り口に下げていたという微笑ましいエピソードを持つ著者。新聞記者から博士号を取得後、サイエンスライターとして環境をテーマとした多くの本を著しています。

 
地球温暖化同様、世界で繋がる海だからこそ、一人ひとりが地球市民として考え解決することの重要性を改めて認識することになりました。
クジラのおなかからプラスチック

クジラのおなかからプラスチック