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都内在住ビジネスマン。CSV、サステナビリティ等に関することを 2019.5 Livedoor Blogから引っ越してきました。

エクセレント・カンパニーの新定義 「シンギュラリティ大学が教える飛躍する方法」 ブックレビュー

新しい環境を利用し他社をはるかに上回る速さで成長する「エクスポネンシャル=飛躍型」企業が登場している。彼らが何者なのか理解し、彼らの襲撃に備え彼らのようになる努力をしなければ、市場から追い出されてしまうだろう。 破壊的テクノロジーの時代はほんの始まりに過ぎない。本格的な変化が起きるのはこれからだ。「エクスポネンシャル」な変化が起きる時代の企業は進化が急務となる。待っていたら死が訪れる。
:ピーター・ディアマンディス:シンギュラリティ大学共同創設者

弊社が開催するワークショップでもカリキュラムの一部に組込み、グループワークの一つにしている、MTP(Massive Transformative Purpose):野心的な革新目標。
シンギュラリティ大学では、飛躍的に成長する企業の条件の一つに、、それら企業には、優れたMTPがあると教えています。

今回は、「シンギュラリティ大学が教える飛躍する方法:ビジネスを指数関数的に急成長させる」(原題:エクショポネンシャル・オーガニゼーションズ)を題材に、その条件の中から、MTPにフォーカスして本書を紹介しましょう。


●シンギュラリティ大学とは?

シリコンバレーにあるNASAリサーチの広大な敷地内にある、2008年に設立された、シンギュラリティ大学。
キャッチフレーズは、Be Exponential.

まずは、シンギュラリティ大学の紹介から。Wikipediaによれば、「教育、エネルギー、環境、食糧、世界的な保健、貧困、セキュリティ、水資源を人類の最も困難な課題(Global Grand Challenges)と定義し、加速的に発展する革新的技術を使ってこれらに積極的に取り組むことをミッションとしているベネフィット・コーポレーションである。また、革新的技術を開発する企業のための、新しいスタイルのスタートアップ·インキュベーターとしても各種活動を行う。」

設立は、2008年。立ち上げたのは、あのレイ・カーツワイルと、Xプライズ財団のCEO  ピーター・ディアマンディス。教育機関としての役割の他、スタートアップ企業の育成やベンチャーキャピタル機能を果たしています。
組織名は大学ですが、あまりにも自由すぎるのカリキュラムや運営のため、正式な大学とは認められず、学位の授与等はないそうですが、今では世界中から受講応募が殺到しているそう。


●飛躍型企業(エクスポネンシャル・オーガニゼーション)とMTPとは、?

そのシンギュラリティ大学で教える、飛躍型企業(エクスポネンシャル・オーガニゼーション)とは何か?
本書で定義されるのは、「加速度的に進化する技術に基づく新しい組織運営の方法を駆使し、競合他社と比べて非常に大きい(少なくとも10倍以上の)価値や影響を生み出せる企業。」
「飛躍型企業は人海戦術や巨大な工場に頼るのではなく、IT技術を基盤にする。そのIT技術とは、これまで物理的に存在したものを非物質化・デジタル化して、オンデマンドで提供できるようにするものだ。」

としています。

そして、飛躍型企業の条件の一つと言われている。MTP(Massive Transformative Purpose):野心的な革新目標 とは何か?

シンギュラリティ大学では、その特徴を脳の構造を基本とし、以下フレームワークを提示していますが、

左脳:秩序・管理・安定性
インターフェイスダッシュボード・実験・自立型組織・ソーシャル→IDEAS

右脳:成長・創造性・不確実性
オンデマンド型の人材・コミュニティとクラウド(群集)・アルゴリズム・外部資産の活用・エンゲージメント→SCALE

これらを包括する大きな目標がMTPとしています。

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本書より

そして、飛躍型企業の特徴の一つに、そうした企業は、優れたMTPを保有しているとしています。

そして、本書で紹介される主なMTPの例は、

  • グーグル:世界中の情報を整理する
  • TED:価値あるアイデアを広める
  • Xプライズ財団:人類にとって有益な、飛躍的技術革新を実現する
  • レッドブル:翼を授ける
  • ゴープロ:最も大切な瞬間をとらえ、共有するのを助ける
  • コカコーラ:世界中をリフレッシュさせる
  • ザッポス:可能な限り最高の顧客サービスを提供する
ちなみに、シンギュラリティ大学のMTPは、「10億人の人々に良い影響を与える」

いずれも非常に大きな夢を追う内容だとわかるだろう。「いましていること」ではなく、「これから達成しようと志していること」が書かれているのだ。また彼らの目標は、狭い分野に限定したものでも、テクノロジーのみを語るものでもない。組織の中の人々だけでなく、組織の外にいる人々(むしろこちらのほうが重要だ)の心や想像力、野心をつかもうとしている。
それこそがMTP、「野心的な変革目標」だ。これは組織の大志とも呼べる高い目標を示している。



●シスコがつなぐ今と夢のあいだ

現在はシンギュラリティ大学のスポンサーシップも行っているシスコが数年前に掲げていた、ミッションステートメントをMTPとしては好ましくない事例として本書で紹介されていました。

顧客・従業員・投資家・パートナーに対して、これまでにない価値と機会を提供し、インターネットの未来をつくる

インターネットの未来をつくるという野心的な目標は掲げていますが、変革を感じるものではありませんし、何より、世の中に数多く存在する普通のネット企業であればどの企業も掲げてそうなセンテンスと言えます。
本書でシスコは、MTP設定の反面教師として紹介されてしまうわけですが、名誉のために、現在のシスコは素晴らしいMTPとそれを体現する素晴らしいコンセプト動画を制作しています。

シスコ

今と夢のあいだをつなぐ


1分程度の動画も併せて是非ご覧下さい。


●MTPをどうつくるか?

こうしたMTPですが、MTPを社内で作るときのヒントがいくつかステップで示されています。

まず最初に
・なぜそれを実行するのか?
・なぜ私たちの会社は存在しているのか?


次のMTPを見つける過程で
・自分が本当に関心を持っているものは何か?
・自分は何をする運命にあるのか?


さらに、自分の情熱を傾けられる分野を見つける上で
・もし絶対に失敗しないとしたら、何をするか?
・もし今日10億ドルが手に入ったら何をするか?


そして、それは野心的な内容か?何を変革するものか?目標になっているか?こうした問いかけをすることが重要としています。


●MTP設定のメリットは?

では、従来のミッション・ステートメントを短くしてキャッチーにしてものではないのか?
こうしたコピーライティングがなぜ、飛躍的企業の条件の一つになるのか?
そうした疑問も生まれることでしょう。また従来のミッション・ステートメントとは異なMTPを作ることのメリット、いくつか示されていましたが、ここでは、以下3点にまとめてみました。

1:文化的なムーブメントの創出
いずれも社内外を巻き込み、求心力のあるキーワードが提示されていると言えるでしょう。優れたMTPは人をワクワクさせるそんな感じがしませんか?

2:エコシステムの形成
MTPは製品やサービスを熱狂的に支持するエコシステムを生み出す。まさにアップルの商品がそれに相当するかと思いますが、利用者がその製品に対して愛着を持ち、その商品を使うことに誇りを持つようになる。そして、企業のマーケティングやアフターサービス、デザインや製造のプロセスまでユーザーは企業に協力するようになるとしています。

3:優れた人を引き寄せる
大きな目標を掲げ、大志あるMTPは人を引き寄せる、つまり新しい人材、最高の人材を引き寄せるにも役立つとしています。



今回は飛躍型企業を形成する条件の一つ、MTPを取り上げましたが、その条件は、前述の通り、
インターフェイスダッシュボード・実験・自立型組織・ソーシャル→IDEAS
・オンデマンド型の人材・コミュニティとクラウド(群集)・アルゴリズム・外部資産の活用・エンゲージメント→SCALE
として体系化され、本書の最後には、付録として、全21問の 「飛躍型企業度診断」チェックリストが掲載されています。

エクスポネンシャル・オーガニゼーションとして、高い志と目標を社内外に発信することは、次世代のエクセレント・カンパニーであり、ビジョナリー・カンパニーななり得る条件の一つであると確信しました。
自分の会社で、所属するプロジェクトやチームで、あるいは個人で、自身のMTPを考えてみませんか?