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都内在住ビジネスマン。CSV、サステナビリティ等に関することを 2019.5 Livedoor Blogから引っ越してきました。

過去から学び未来に活かす「失敗学のすすめ」ブックレビュー前編

成功例に学ぶというのは、一見すると誰の目にも賢いやり方に思えるはずである。それなのになぜうまくいかないのだろうか。その理由は、簡単である。お手本を模倣することでうまくいくと考えている人の多くは、やがてそれ以外の方法について「見ない」し「考えない」ようになる。さらには、よりいいやり方を探し求めることまでやめて「歩かない」ようにもなるが、その一方で時代は常に変化しているので、あるときの「いいやり方」がいつの間にか「ダメなやり方」に変わるということが必ず起こるからである。

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「失敗学」を通して、研究者の立場に加え、教育者、指導者の立ち位置から、自身の知恵や経験を後進に伝え、社会に貢献し還元したいという著者の一貫した想い。期待通りの内容でした。

本書が単行本として世に出たのは、2000年11月。恐らくビジネスパーソンが読むべき名著100選の類があれば、選ばれるべきベストセラーであり、ロングセラーの一冊と言えるでしょう。

前編では、世界を変えた3つの失敗と失敗の階層化をテーマに紹介します。

 

●失敗の定義と社会発展に貢献した三大事故

上記2点の本題に入る前に、冒頭で示される、失敗の定義と科学技術の側面から社会的な発展に多大な貢献を果たした3つの失敗を紹介します。

失敗学における失敗の定義とは、

「人間が関わって行うひとつの行為が、はじめに定めた目的を達成できないこと」

と定義しています。

 

そして、著者が東大工学部の機械系を専攻した新三年生に必ず話をする過去の三大事故とは?

素人でも何となく分かりそうな常識的なこと、しかも、科学技術の分野で、わずか一世紀にも満たない前には、未知のものとされていた事には驚きでした。少し長くなりますが、ここで紹介します。

 

1.1940年 アメリカ ワシントン州 タコマ吊り橋の崩壊

吊り橋設計では、最先端の技術を持つ設計士が関わった吊り橋が完成からわずか4カ月後、秒速19mの横風により崩壊

→風により橋桁が動かされ、その振動によって、他の箇所が共振する「自励振動」が当時は未知のものであった。

 

2.1954年 イギリス デハビランド社旅客機の空中爆発

デハビランド社 コメット機が世界初のジェット旅客機として路線就航したのが。1952年。翌年には、世界で47機が就航、しかし、就航から2年後の1954年、2機が相次いで空中爆発。

→その当時、機体金属の耐久実験が、実際の旅客機が飛ぶ環境と同条件では行われず、金属疲労の寿命の計算を誤ったこと。また、金属疲労には不思議な性質があり、10の力を加えた時に100万回の動きに耐えられるものが、20の力では100回の動きにしか耐えらえないといった性質があるということ。

 

3.1942年 アメリカ 輸送船の連続破壊

第二次戦時中、アメリカでリバティー船と呼ばれる1トン程度の輸送船が4,700隻以上造られたが、1942年から1946年にかけて、1,200隻以上が航行中に破壊。

→鉄の伸縮性が温度が下がることで完全に失われることにより、溶接箇所等に大きな力が加わると、力を逃がすことが出来ずに破損。こうした低温脆性と呼ばれる鉄の特性がその当時は未知のものであった。

 

3つ目を例を挙げると、破壊箇所の現象面だけを見れば、溶接箇所の強度が足らず、造船に溶接は相応しくないと判断が下されるところ。しかし、失敗から学び、その原因を追究したことにより、人類は、大型船や吊り橋、ジェット機の恩恵に預かっているということです。

 

●失敗の階層化

失敗を学問として高め、失敗そのものの分析、構造化する本書。

前半でのハイライトと言えるのが、失敗の種類や特徴、そして、失敗を階層化する箇所と言えるでしょう。

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本書では、2000年代の初めに起きた、雪印の乳製品による集団食中毒問題を例に解説がされています。

 

今でも記憶に新しいこの不祥事が報道された当初は、工場の乳製品製造機器の杜撰な衛生管理に起因するものだったかと思います。その原因として、マニュアルに従わなかった従業員、それを管理せず見過ごしていた工場の管理者という図式が浮かび上がります。しかし、実態は、過度な残業が日常茶飯事で製造現場は疲弊していたということ。

失敗原因の階層になぞれば、雪印の不祥事は、個人や組織の問題ではなく、その要因は、企業経営におけるガバナンスがコンプライアンスに問題があったということ。さらに、こうした管理を体制を監督するはずの行政の怠慢と見ることも出来るが、応々にして、階層の上にいるものは、失敗の責任を下の者に転嫁することがよくあることを指摘しています。 

 最近頻発している医療ミス問題でも、病院側が管理の不備、経営の問題を認めず、一看護婦(原文のまま)のミスとして問題を処理しようとするケースをしばしば見かけます。階層性に存在するこうした問題を理解しないことには、やはり真の原因が見れてこないのがまさに失敗の持つ特性のひとつなのです。

 筆者によれば、この階層は上位に行くほど、失敗した時の社会的な影響や及ぼす規模も大きくなるとしています。

つまり、世界の三大失敗は何れも未知への遭遇であったため、社会的影響力も強く、そ

 

研究者の立場に加え、「失敗学」を通して、教育者、指導者、そして、自身の知恵や経験を後進に伝え、社会に貢献し還元したいという著者の一貫した強い想い。期待通りの内容でした。

次回、後編に続きます。

 

失敗学のすすめ (講談社文庫)

失敗学のすすめ (講談社文庫)