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都内在住ビジネスマン。CSV、サステナビリティ等に関することを 2019.5 Livedoor Blogから引っ越してきました。

ダニエル・ピンクさんからの贈り物「モチベーション3.0」ブックレビュー

人間は単に、鼻先にぶら下がるニンジンを追いかけて走るだけの馬とは違うとわたしたちは知っている。子どもたちと一緒に時間を過ごしたり、自分が最高に輝いている姿を思い起こせば、受身で命令に従うだけの従順な姿勢が人間の本来の姿ではないとわかる。

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以前に、ダニエル・ピンクさんを日本にお招きして講演の機会を頂いたのは、2003年のこと。前年には日本でも『フリーエージェント社会の到来』が発売され、アル・ゴア副大統領のスピーチライターが書いた、新しい働き方を提言する未来予見の書として話題となりました。

発売当初は、黄色の表紙でしたが、現在販売されている装丁は、ピンク色なんですね・・

 

当時、初来日のピンクさんは、娘さんが大ファンだというキティちゃんグッズをお土産で買えるを大変喜んでいたこと、そして、とても物静かで紳士的であったことを今でも記憶しています。

また、その時に食事の席で伺ったのが、次の執筆のテーマが、脳に関するものであるという事。その当時は全く想像もできませんでしたが、それは、数年後、日本でも、『ハイ・コンセプト「新しいこと」を考え出す人の時代』として、出版されることになるわけです。

 

そして、初来日時にご本人から直接頂いたのが、冒頭の画像にある、THANKSの文字が刻まれた重量感のあるオブジェ。今でもリビングのテレビボードに鎮座する一生の宝物となりました。

 

本書はずっと以前に読んでいましたが、最近文庫本が発売されていることを知り、再読、自身の備忘録も含めて、まとめてみました。

 

●社会とヒトの基本ソフト

本書の前提となるのが、モチベーション1.0、2.0、3,0の定義。基本ソフトのOSになぞらえて、以下の行動と解説しています。

モチベーション1.0:生存のための行動

モチベーション2.0:報酬と処罰(アメとムチ)の動機付けによる行動

モチベーション3.0:学びたい、創造したい、世界を良くしたいという自律による行動

 

21世紀に入り、特に先進国では、定型的なルーチンワークよりも創造性を必要とする仕事が増え、そうした社会において、アメとムチによる管理は、働く人の創造性を奪ってしまう。そこで、新しい時代には、自発的な動機付けによる行動、つまり、「モチベーション3.0」が重要であるということ。

 

ところで、最近、流行りの「○○○○2.0」とか、「○○○○3.0」という書籍タイトル。本書がハシリではないでしょうか? しかし、原書のタイトルは『Drive』 

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そういった意味では、訳者 大前研一氏の出版界に与えた影響と功績は大と言えるかもしれません。

 

では、なぜ、2.0ではなく、3.0が重要なのか? 本書では、ハーバード・ビジネススクール 世界屈指の研究者が行った興味深い実験が紹介されていました。

アメリカの23人の芸術家を対象に、誰かからの依頼による受注作品と自主制作品とをそれぞれ10作品を選ばせ、さらに、他の芸術家や学芸員がそれら作品の評価をしたところ、技術面では差がないものの、創造性においては、自主制作品の方が圧倒的に評価が高かったというもの。

つまり、創造性が求められる仕事は、外部からの報酬よりも、自発的な動機付けが重要であることが実験を通して、裏付けられたということです。

 

●モチベーション3.0の3つの要素

自発的な動機付けによる行動が、モチベーション3.0とすれば、その重要な要素は何か、それは、以下の3点であるとしています。

 

1.自律性:自分がしたいように仕事をするということ。

全体の業務時間の20%を好きなことに割り当てて良いというGoogleの20%ルール。通常業務の時間よりも、20%の時間帯の方が、はるかに効率良く仕事するという事例の紹介

そして、ハーマンミラー社のデザイン担当ディレクターが掲げる、良いデザインを生みだすために必要な5つの信条の一つが紹介されていました。

「自分の作ろうとするものは自分が決める」とある。これは、仕事の自律性を重んじるタイプⅠの考え方を的確に示すスローガンとしても使える言葉だ。

 

2.マスタリー(熟練):何か価値あることを上達させたいという欲求。

複雑な問題の解決には、探究心と、新たな解決策を試そうとする積極的な意思が必要だ。モチベーション2.0が従順な態度を求めていたのに対し、モチベーション3.0は、積極的関与を求める。それだけあマスタリー、すなわち物事に熟練することを可能にする。

 

3.目的:高邁な目的を持つこと

この目的とは、まさに最近問われる、企業のパーパスや存在意義と符合することでしょう。

「営利目的だけではない」企業は、過去50年にわたり流行しているが、口先だけでその約束をはたしたためしがない、「社会的に責任ある」とスローガンで謳う企業とはまるで異なる。〈モチベーション3.0〉の企業の狙いは、倫理に反せず法を順守するよう努めながら、利益を追い求める従来企業とは似て非なるものである。利益を目指すのではなく、利益を触媒として「目的」の達成を目指す企業のことである。

 

本書の最後には、ピンクさんの細やかな気遣いともいえる、読後に同僚や友人とディスカッションするために有効な20の質問までもが掲載されています。

その中の15番目の質問を最後に・・

本書は、組織の目的についても個人の目的についても、きわめて重要視している。あなたの組織には大きな目的があるだろうか?それはどのような目的か?あなたの組織が利潤追求型ならば、それは、業界の競争相手からの圧力を考慮した現実的な目標なのだろうか?

 

様々なテーマを深堀りする著書を継続して発売するピンクさん。次回先はのテーマはなんだろう?

 

モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか (講談社+α文庫)

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フリーエージェント社会の到来 新装版---組織に雇われない新しい働き方

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ハイ・コンセプト「新しいこと」を考え出す人の時代

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