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都内在住ビジネスマン。CSV、サステナビリティ等に関することを 2019.5 Livedoor Blogから引っ越してきました。

管理された衰退か、自然任せの崩壊か、望まない未来「2052 今後40年のグローバル予測」ブックレビュー

最後にもうひと言、言わせてほしい。
どうか私の予測が当たらないよう、力を貸してほしい。
力を合わせれば、はるかにすばらしい世界を築くことができるはずだ。

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本書が日本で発売されたのは、2013年1月、そして、発売から既に6年以上の月日が経過しているにも関わらず、一向に改善されない地球温暖化問題。示される予測が的中するなら、私たち人類は、絶望的な未来を迎えることになりそうです。

本書の著者は、ローマクラブによる「成長の限界」(1972年)著者の一人。その「成長の限界」から40年後を予測したのが、本書となります。

 

2052年を迎えるまでに、全世界での人口増加はピークを越えCO2排出量も低減に加え、再生可能エネルギーの進展等により、環境への負荷は将来軽減されますが、地球温暖化、生物多様性の側面からは、もはや手遅れ。そして本書の最後に「自らの予測が当たらない様、手を貸して欲しい」という読者へのメッセージで締める、望まない未来が描かれています。

 

近視眼的民主主義の弊害

地球環境の危機が分かっているのなぜ、人類は理性的な判断を下すことができないのか、その要因の一つが、短期的にウケる政策が支持される民主主義によるものとしています。

また、全体を通して、説得力を持ち公平中立な内容と思わせるのが、各章の内容に合わせて、様々な分野の多くの専門家が、20ものコラムを寄せていること。その内容とは、人口や消費、エネルギーやCO2排出、食料等、多岐の分野で40年後の世界が示されていますが、ほぼ全てその見解は一致していると言っていいでしょう。

そして、唯一とも言える、著者と専門家で相違があるのが、原子力発電。両者の意見は以下の通り。

専門家:2052年時点で原子力発電を継続して稼働しているのは、中国とフランスのみ。その2国とも、2065年までに全廃。

著者:2052年時点で、原子力発電が過去の遺物となっているとは思えない。相変わらず新興国では使われ続けるが、再エネの進展により、原子力発電が占める割合は、現在の1/2程度。

 

●修正資本主義とCSR2.0

本書では、望まない、そして不都合な未来が全編を通して展開されるわけですが、その中でも一筋の光明は、資本主義やCSRの変化。

資本主義や今後40年間、変わらず存続するとは考えていない。名前は残るが、大きな二つの変化があるだろう。ひとつは、投資の流れを決めるのが、利益だけではなくなるということだ。もうひとつは、企業が、財務実績だけでなく、自社の活動の環境や社会への影響を報告しなければならなくなることだ。

また「選択の編集」という考え方が浸透するという見解。

選択の編集とは、環境や社会に損害や負荷を与える製品やサービスを、消費者が選択する機会がにないようにする活動のこと。エコマークと呼ばれる、FSCやMSC、RSPO等の認証マーク付き商品が、今では特別なものとして捉えれがちですが、消費者が選択を委ねるのではなく、企業はその基準に沿った製品を提供するというもの。

 

そして、CSRに関しては、これまでの反省の意を込めて、これまでのCSRをCSR1.0と定義し、以下4つのタイプに分類しています。

・防御的CSR:コンプライアンス主導、リスクベース

・慈善的CSR:利他主義主導、慈善行為ベース

・販売促進CSR:イメージ主導、PRベース

・戦略的CSR:製品主導、規約ベース

 さらに、少し長くなりますが、今風に言えば、パーパス経営を言える、興味深く賛同できた箇所をそのまま紹介しましょう。

CSR1.0の失敗には三つの根本的な原因がある。社会、環境の改善に付加的なアプローチをしてきたこと、大半の企業において重要視されていないこと、顧客と市場が責任ある持続可能な企業行動に十分報いようとせず、また無責任で持続可能性のことを考えない企業を罰しようともしなかったことである。

そういうわけで、必要とされる、そしてちょうど現れようとしているのは、CSRへの新たなアプローチ、私が「組織のCSR」と呼ぶCSR2.0である。これは、目的主導、原則ベースのアプローチで、これによって企業は、ビジネスモデルや製法、製品、サービスを大幅に改革し国内外の進歩的な政策の実現を呼びかけ、現在の持続可能性と無責任の根本的な原因を特定し、それに立ち向かおうとする。(ウェイン・ヴィセル氏:CSRインターナショナル創始者、ケンブリッジ大学非常勤講師)

 

●私たちへの20のアドバイス

では、絶望的な未来に向けて、私たちは個人として今後どうするのか?本書最後に著者からの、自虐的とも言える20のアドバイスが掲載されています。

次世代にどうバトンを渡し、未来を託すのか? 目の前にあるのは、行き場のない閉塞感でした。

1:収入より満足に目を向ける
2:やがて消えていく物に興味を持たない
3:最新の電子エンターテイメントに投資し、それを好きになろう
4:子どもたちに無垢の自然を愛することを教えない
5:生物多様性に興味があるなら、今のうちに行って見ておこう
6:大勢の人に荒らされる前に世界中の魅力あるものを見ておこう
7:気候変動の影響が少ない場所に住みなさい
8:決定を下すことのできる国に引っ越しさい
9:あなたの生活水準を脅かす持続不可能性について知ろう
10:サービス業や介護の仕事が嫌なら、省エネ関連か再生可能エネルギーの分野で働きなさい
11:子どもたちに北京語を習うよう勧めなさい
12:成長は良いことだという考えから脱却する
13:化石を基にした資産は、ある日突然、その価値を失うことを忘れないように
14:社会不安に敏感でないものに投資しよう
15:相応の義務以上のことをしよう。将来後ろめたい思いをしなくてすむように
16:現在の持続不可能性の中にビジネスの可能性を探ろう
17:ビジネスで、高い成長性と利益率を混同しないように
18:選挙で再選を望むなら、短期的に結果が出る公約を掲げよう
19:未来の政治は物理限界に左右されることを覚えておこう
20:政治において、限りある資源の平等な入手は、言論の自由に勝ることを認めよう

 

日本語版の本書は、500ページを超える大著。ダイジェスト版を発売して、そのエッセンスを多くの人に知って欲しい、そう思わせる全人類必読の一冊。おススメです。

2052 今後40年のグローバル予測

2052 今後40年のグローバル予測