Marketing They Are a-Changin'

都内在住ビジネスマン。CSV、サステナビリティ等に関することを 2019.5 Livedoor Blogから引っ越してきました。

問われる個人の生き方とセンス「情報生産者になる」ブックレビュー

研究は最初に問いを立てることから始まります。(中略)問いを立てることは、いちばん難しいかもしれません。なぜなら、問いの解き方は教えることができても、問いの立て方は教えることができないからです。しかも、誰も立てたことのない問いに、まだ答えのない問いを立てるには、生き方もセンスも問われます。

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上野千鶴子さんと言えば、テレビの情報番組でも最近取り上げられた東京大学 入学式での従祝辞。

本の執筆者として初めて知ったのは、この本。読んだことはありませんが、発売当時(1989年)は話題となり、ベストセラーととなりました。

スカートの下の劇場: ひとはどうしてパンティにこだわるのか (河出文庫 う 3-1)

スカートの下の劇場: ひとはどうしてパンティにこだわるのか (河出文庫 う 3-1)

 

 そして、今回紹介する一冊は、「情報生産者になる」。

新書にも関わらず、参考文献まで含めると380ページ以上のずっしりとした見た目の厚さ同様、研究論文執筆のためのノウハウがきっしりと詰まった一冊でした。

 

様々なビジネス書を読んでいつも感じるのは、お手軽に作られた書籍程、内容が冗長でこの内容であれば、もっと簡潔かつシンプルにページ数を抑えることが出来たのではと度々感じること。しかし、この本は、これまで長年蓄積された経験のノウハウも余すことなく伝えるには、このページ数が必要だったと思える内容でした。

 

●普遍的な調査レポート作成に通じるノウハウ

一般的なビジネスパーソン向けというよりは、研究者向けでは・・とタイトルと内容に違和感を感じながらも、読み進めましたが、まさにその内容は、情報を収集し、論文としてのアウトプットの体裁まで、その内容を惜しみなく開示していること。

本書のタイトルを「情報生産者になる」にしてよかった、と思います。「研究者になるには」とか、「論文の書き方」でもよかったかもしれませんが、本書はそれより広い情報発信者になるためのノウハウを網羅しているからです。

インタビューの方法から、定性情報・定量情報の分析やまとめ方まで、大いに参考になる内容でした。

特に参考になったのは、「質的情報の分析」の箇所。この情報加工を

(1)いったん情報を脱文脈化したあとに:カテゴリー化、メタ情報化

(2)再文脈化するというプロセス:マッピング、チャート化、ストーリーテリング

として整理しています。

質的情報の収集・分析に関して語られるⅣ章、おススメです。

 

●問いを立てる

そして、一番の収穫は、研究者の論文執筆には、なによりも問いを立てる事の重要性を学べたこと。クライアントからの依頼により、調査レポートをまとめる機会はこれまで数多くありましたが、その内容は、何を目的として何の調査からのお題が与えられたものであるわけですが・・

情報を生産するには問いを立てることが、いちばん肝心です。それも、誰も立てたことのない問いを立てることです。適切な問いが立ったとき、研究の成功は半ばまで約束されているといっても過言ではありません。問いを立てるとは、現実をどんなふうに切り取って見せるかという、切り込みの鋭さと切り口の鮮やかさを言います。

 

本書で「問いを立てる」というのは、問題意識、ノイズをキャッチするセンスの事と述べられていますが、まさに今ビジネスの世界でも問われる、課題発見のスキル。

つまり、例えお題が与えられていたとしても、そこで思考停止には陥らず、クライアントからの依頼でも、当事者意識と問題意識を持つということ。

 

以前に紹介した山口周さんのニュータイプの時代では、オールドタイプとニュータイプの思考や行動の対比がまとめられていますが、オールドタイプは、正解を探して、ニュータイプは、問題を探すというもの。

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本書で紹介される具体的な問いの立て方の事例は以下の通り。

 人生に生きる意味はあるか?

→どんな時に人は生きる意味を感じるか?

 

女性の本質は母性である

→いつの時代から女性の本質は母性だと考えられるようになったか?

→女性の本質を母性と考える人々はどんな人か?

 

本書の大半を占めるのは、論文や報告書として情報をアウトプットする時に具体的なノウハウ。では、そのテーマに何を選び、どう問いを立てるのか?

今、企業経営で問われるパーパス、そのパーソナル版として、どう問題意識を持ち、何を課題とするのが、その生き方とセンスが問われる、そんな内容でした。

ロングセラーとして読み継がれる一冊となるでしょう。

 

情報生産者になる (ちくま新書)

情報生産者になる (ちくま新書)

 

 

 

 

 

 

 

 

パーソナル・ブランディングのススメ「インディペンデント・シンキング」ブックレビュー

インディペンデント・シンキングは、既存の組織の利益第一という枠組みを超えるマインドを求める。いかなる場合にも、どこにいても、価値を提供できる実力を身につける、このようなマインドとスキルを持った人たちは、社内にいても、新たなインパクトを生み出す。社外に対しても通用する価値を追求するということは、企業と自身の関係を対等なものへと転換する。

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読後に思い浮かべた最近読んだ本は、以下の2冊。

www.mhagiya.com

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そして、もう一冊は、恐らく20年位前に読んだ、トム・ピーターズのこの本。

トム・ピーターズのサラリーマン大逆襲作戦<1> ブランド人になれ!

トム・ピーターズのサラリーマン大逆襲作戦<1> ブランド人になれ!

 

 自分をどう差別化させ価値提供が出来るか、そして、与えられた問題を解くのではなく、どう問いをたて、新しい価値を提供するか?

また、たとえ会社に属していても雇われない、つまり、会社から請われる存在となるのか?

なぜ、そうしたマインドシフトとスキルセットが必要なのかを問うのが本書の内容となります。乱暴かつ端的にまとめてしまえば、会社に留まるも、会社を飛び出して独立するも、自己研磨は一生必要、今後はパーソナルなブランディングが必要ということ。

マッキンゼーや日本郵政の専務、東京スター銀行 COO等を歴任し、現在は、ビジネス・ブレークスルー大学(以下、BBT)の副学長を務める著者の今月(2019年9月)発売の最新刊となります。

 

●インディペンデント・シンキングとは?

本書によれば、インディペンデント・シンキングとは、

外海の世界に踏み出すための第一歩、プールの中で浮輪を付けて生涯留まるべきか、思いきって外海にでるべきか・・・そんなあなたの「もやもや」を解決するための思考法だ。

そして、自分は何をしてどんな価値を提供できるのかをいつも問いかけること。

トヨタ自動車でさえ今後、「終身雇用は難しい」と会長が述べたのが今年5月の事。いやはや、大変な時代となりました。

 

●自己研磨すべきこと

 では、そうした時代に、インディペンデント・シンキングを磨くために重要なことは何か?それは、「マインド」と「スキル」の両輪が必要ということ。

「マインド」を磨くために、とは、仕事の実体験を通して同質の組織ではなく、社内外含めて、多様な人との交流やそうした環境に身を置くこと。

そして、「スキル」を磨くための履修項目として、本書では、大学の科目選択に倣って、必修科目、選択科目、専門科目の3つのカテゴリーを挙げています。

3つのカテゴリーは、ハードルが高くで、ちょっと引いてしまう様な内容でしたが、詳細の内容は是非、本書で確認して頂きたいと思います。

 

●「善悪の境界線」の明確化

本書の重要なもう一つのキーワードの一つに、「ハイエンド・アウトロー」がありますが、それは、

インディペンデント・シンキングのマインドでだけでなく、必要なスキルも志も兼ね備える。そのような思考法を備えたうえで、実際に行動しながら変革を起こし、あるいは自己実現を図る人

としています。

4象限にマッピングしたのが、下図となります。

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本書より

ハイエンド・アウトローは常に対外的なインパクト、特に共通価値を最大限駆使して、スケール感を追求する。小さなもので満足すると、そのとたんサイロ構造の中での成果に陥ってしまい、縦割り構造を転換するに至らないからだ。(中略)常に自分の提供価値を測定しながら、小さなスケールに陥っていないか確認したい。

 

●過去問のない世界の問題解決

ビジネススクールでの学びと言えば、過去の豊富なケーススタディに基づいて、研究・討議を行うイメージでしたが、本書後半で、BBTでは全く異なるアプローチをしていることが紹介されています。

すでに答えが出ている課題を考えても本当の意味での思考力や判断力を養うことが出来ないという理由から、現在進行形の経営課題を自ら分析し、考えることで、経営者に変わり、自分ならどうするか?つまり、正解のない経営課題を議論しているとの事。

そして、個人的に最もワクワクして読み進めることが出来たのが、第4章の5人の起業家による実際のビジネス創出の「発想の着眼点」と「なぜやるのか?」がまとめられたケーススタディ。まさに「自分だったらどうするか?」を考える上で、学びの多い内容となりました。

起業を自分事化して、自分が実現した未来、そして何よりもその事業を自らが立上げ、社会や顧客に貢献したいという想い。なぜその事業をやるのか?ケーススタディを通して、起業家一人ひとり人物像が浮かび上がります。

彼ら彼女らの事例は、「本来あなたのやりたいこと、やるべきことと現状のミスマッチを感じているか?」「最終顧客への貢献、利他的行為による意義を感じているか?」「思考を広げるための知見を持ち合わせているか?」を問いかける。

その実現に向けて人生を賭けて歩み始めた人たちの姿は見えるが、映し出されたのは、大上段に振りかぶった起業家像ではない。皆、自ら学び続ける環境に身を置き、「発想の着眼点」を大事にし、そして第一歩を踏み出すことで次の世界を切り開く鍵を得ている。最初がなければ、一生見ることのない世界だ。

 

ハイエンド・アウトローに求められる行動規範やスキルやマインドを磨くためにすべきこと、全体を通して、とても実践的な内容でした。

なぜマインドセットやスキルを磨くのか?ハイエンド・アウトローの定義、そんな事は他人に言われなくても・・という皆さんも、第4章の5つのケーススタディを通して自らが考える、是非、トライしてみて下さい。

 

組織にいても独立しても自分の価値を高め続ける インディペンデント・シンキング

組織にいても独立しても自分の価値を高め続ける インディペンデント・シンキング

 

 

 

ダニエル・ピンクさんからの贈り物「モチベーション3.0」ブックレビュー

人間は単に、鼻先にぶら下がるニンジンを追いかけて走るだけの馬とは違うとわたしたちは知っている。子どもたちと一緒に時間を過ごしたり、自分が最高に輝いている姿を思い起こせば、受身で命令に従うだけの従順な姿勢が人間の本来の姿ではないとわかる。

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以前に、ダニエル・ピンクさんを日本にお招きして講演の機会を頂いたのは、2003年のこと。前年には日本でも『フリーエージェント社会の到来』が発売され、アル・ゴア副大統領のスピーチライターが書いた、新しい働き方を提言する未来予見の書として話題となりました。

発売当初は、黄色の表紙でしたが、現在販売されている装丁は、ピンク色なんですね・・

 

当時、初来日のピンクさんは、娘さんが大ファンだというキティちゃんグッズをお土産で買えるを大変喜んでいたこと、そして、とても物静かで紳士的であったことを今でも記憶しています。

また、その時に食事の席で伺ったのが、次の執筆のテーマが、脳に関するものであるという事。その当時は全く想像もできませんでしたが、それは、数年後、日本でも、『ハイ・コンセプト「新しいこと」を考え出す人の時代』として、出版されることになるわけです。

 

そして、初来日時にご本人から直接頂いたのが、冒頭の画像にある、THANKSの文字が刻まれた重量感のあるオブジェ。今でもリビングのテレビボードに鎮座する一生の宝物となりました。

 

本書はずっと以前に読んでいましたが、最近文庫本が発売されていることを知り、再読、自身の備忘録も含めて、まとめてみました。

 

●社会とヒトの基本ソフト

本書の前提となるのが、モチベーション1.0、2.0、3,0の定義。基本ソフトのOSになぞらえて、以下の行動と解説しています。

モチベーション1.0:生存のための行動

モチベーション2.0:報酬と処罰(アメとムチ)の動機付けによる行動

モチベーション3.0:学びたい、創造したい、世界を良くしたいという自律による行動

 

21世紀に入り、特に先進国では、定型的なルーチンワークよりも創造性を必要とする仕事が増え、そうした社会において、アメとムチによる管理は、働く人の創造性を奪ってしまう。そこで、新しい時代には、自発的な動機付けによる行動、つまり、「モチベーション3.0」が重要であるということ。

 

ところで、最近、流行りの「○○○○2.0」とか、「○○○○3.0」という書籍タイトル。本書がハシリではないでしょうか? しかし、原書のタイトルは『Drive』 

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そういった意味では、訳者 大前研一氏の出版界に与えた影響と功績は大と言えるかもしれません。

 

では、なぜ、2.0ではなく、3.0が重要なのか? 本書では、ハーバード・ビジネススクール 世界屈指の研究者が行った興味深い実験が紹介されていました。

アメリカの23人の芸術家を対象に、誰かからの依頼による受注作品と自主制作品とをそれぞれ10作品を選ばせ、さらに、他の芸術家や学芸員がそれら作品の評価をしたところ、技術面では差がないものの、創造性においては、自主制作品の方が圧倒的に評価が高かったというもの。

つまり、創造性が求められる仕事は、外部からの報酬よりも、自発的な動機付けが重要であることが実験を通して、裏付けられたということです。

 

●モチベーション3.0の3つの要素

自発的な動機付けによる行動が、モチベーション3.0とすれば、その重要な要素は何か、それは、以下の3点であるとしています。

 

1.自律性:自分がしたいように仕事をするということ。

全体の業務時間の20%を好きなことに割り当てて良いというGoogleの20%ルール。通常業務の時間よりも、20%の時間帯の方が、はるかに効率良く仕事するという事例の紹介

そして、ハーマンミラー社のデザイン担当ディレクターが掲げる、良いデザインを生みだすために必要な5つの信条の一つが紹介されていました。

「自分の作ろうとするものは自分が決める」とある。これは、仕事の自律性を重んじるタイプⅠの考え方を的確に示すスローガンとしても使える言葉だ。

 

2.マスタリー(熟練):何か価値あることを上達させたいという欲求。

複雑な問題の解決には、探究心と、新たな解決策を試そうとする積極的な意思が必要だ。モチベーション2.0が従順な態度を求めていたのに対し、モチベーション3.0は、積極的関与を求める。それだけあマスタリー、すなわち物事に熟練することを可能にする。

 

3.目的:高邁な目的を持つこと

この目的とは、まさに最近問われる、企業のパーパスや存在意義と符合することでしょう。

「営利目的だけではない」企業は、過去50年にわたり流行しているが、口先だけでその約束をはたしたためしがない、「社会的に責任ある」とスローガンで謳う企業とはまるで異なる。〈モチベーション3.0〉の企業の狙いは、倫理に反せず法を順守するよう努めながら、利益を追い求める従来企業とは似て非なるものである。利益を目指すのではなく、利益を触媒として「目的」の達成を目指す企業のことである。

 

本書の最後には、ピンクさんの細やかな気遣いともいえる、読後に同僚や友人とディスカッションするために有効な20の質問までもが掲載されています。

その中の15番目の質問を最後に・・

本書は、組織の目的についても個人の目的についても、きわめて重要視している。あなたの組織には大きな目的があるだろうか?それはどのような目的か?あなたの組織が利潤追求型ならば、それは、業界の競争相手からの圧力を考慮した現実的な目標なのだろうか?

 

様々なテーマを深堀りする著書を継続して発売するピンクさん。次回先はのテーマはなんだろう?

 

モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか (講談社+α文庫)

モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか (講談社+α文庫)

 
フリーエージェント社会の到来 新装版---組織に雇われない新しい働き方

フリーエージェント社会の到来 新装版---組織に雇われない新しい働き方

 
ハイ・コンセプト「新しいこと」を考え出す人の時代

ハイ・コンセプト「新しいこと」を考え出す人の時代

 

 

 

 

きっかけは宮崎駿氏主宰の勉強会「失敗学のすすめ」ブックレビュー後編

行動に始まって、体感・実感によって知識の受け入れ素地を築いた後は、自分の失敗体験だけでなく、他人の失敗体験を仮想失敗体験として吸収し、さらには学習した知識などを次々吸収して蓄えていきます。その中で、最終的には真の理解へといたるのが、創造力要請のための理想的プロセスです。

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前回に続いて、「失敗学のすすめ」ブックレビュー後編。

長年読み継がれるロングセラーだけあって、学ぶべき箇所が多くレビュー箇所の絞り込みに苦労しました。

ブログコンテンツを通して伝えることが出来ているのは、本書の中のほんのわずかなエッセンスとなりますので、是非、本書を手にとって、自分なりの学びを見つけて下さい。

 

●失敗は予測できる
大きな失敗が発生する時には、必ず予兆となる現象が現れるとの事。「災害防止の祖父」と呼ばれる、ハインリッヒの法則によれば、

「一つの大きな大失敗」には、
→ 現象として認識できる失敗が約30存在する
→ さらにその裏には「まずい」と感じた失敗とは呼べない現象が300存在する

というもの。

っまり、失敗とは呼べない「まずい」と思ったときに何らかの対応をすれば、大きな失敗を未然に防げるということ。

しっかりとしたアンテナを張り巡らせれば、必ず失敗の予兆を認識できるし、それに対して適切な対応をとれば、大きな失敗の発生を防ぐことも十分に可能です。理屈として考えれば、これほど簡単な失敗回避の対策はありません。しかし、現実には、こうした失敗の予兆は放置されることがほとんどです。なぜなら失敗は、「忌み嫌うもの」であり、できれば「見たくない」という意識が人々の中にあるからです。

 

失敗は「忌み嫌うもの」の箇所ですが、第三章には、失敗情報は伝わりにくく、時間が経つと衰退すると述べられていますが、以下要因によるものと指摘しています。

・失敗情報は隠れたがる

・失敗情報は単純化したがる

・失敗情報は変わりたがる

・失敗情報は神話化しやすい

・失敗情報はローカル化しやすい

・客観的失敗情報は役に立たない

・失敗は知識化しなければ伝わらない

詳細は本書をご確認下さい。

 

●失敗を創造に活かす

本書では失敗を構造化、可視化し、失敗の回避方法までが述べられていることに加え、失敗から学び、それを創造性に活かすことの方法論の提言があることでしょう。

まず最初に述べられるのは、創造とは、何の関連性もないバラバラで孤立したアイデアの種を結びつけ、脈絡を持たせる作業が思考の中で最も大事というもの。

 

失敗は成功のもと、失敗は成功の母と言われますが、誰も失敗はしたくないし、出来れば避けたいもの。つまり、失敗体験は「必要最小限に抑える」のが、失敗との上手な付き合い方。では、創造に活かすにはどうすれば良いか?

一つ目に挙げられるのが「仮想失敗体験」

それは、すでに習得した知識を活用し、いかにも失敗を体験しているかの様にシミュレーションすること。著者はある身体的に痛みを伴う自らの体験を大学の授業で学生に伝えている様ですが、つまり、他人の失敗体験でも自分事として捉えることが出来れば、その痛みやリスクを自分が失敗を体験した事の感じることが出来るというものでした。

 

二つ目が「全体の理解」。研究開発でもイベントの企画でもまずは行動し、最初から最後まで全てのプロセスに関わる機会を持つ事としています。

真の(科学的)理解というのは、方程式が解けるとか、法則をやみくもに覚えているというものではなく、ある現象の因果関係がきちんと理解できる状態をいいます。しかも、蓄えられた知識を、自分で自由に使えなければなりません。

本書での興味深いエピソードは、伝統技術による製法による製鉄や日本刀づくりの職人も、その仕事に携わりながら、本当のベテランでありプロは、最新の治金学の知識も身につけているというもの。

全体の理解というのは、単の仕事の時間軸のプロセスだけではなく、その仕事やテクニカル面での深度をも理解しなければ失敗を創造に活かすことはできないということこと。深いです。

 

最後に、あとがきによれば、前著での実績をきっかけとして、ある勉強会で講演の依頼があり、その勉強会に講談社の編集者が参加して、講演内容が非常に面白かったため、著者に出版の相談があったのが、本書出版のきっかけ。

そして、その勉強会を主宰していたのは、日本が世界に誇るクリエーターの一人、宮崎駿氏との事。

宮崎駿氏がヒントを得た「失敗からの創造性」、なんだったのでしょう? ご存じのジブリファンの方、教えて下さい。

 

失敗学のすすめ (講談社文庫)

失敗学のすすめ (講談社文庫)

過去から学び未来に活かす「失敗学のすすめ」ブックレビュー前編

成功例に学ぶというのは、一見すると誰の目にも賢いやり方に思えるはずである。それなのになぜうまくいかないのだろうか。その理由は、簡単である。お手本を模倣することでうまくいくと考えている人の多くは、やがてそれ以外の方法について「見ない」し「考えない」ようになる。さらには、よりいいやり方を探し求めることまでやめて「歩かない」ようにもなるが、その一方で時代は常に変化しているので、あるときの「いいやり方」がいつの間にか「ダメなやり方」に変わるということが必ず起こるからである。

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「失敗学」を通して、研究者の立場に加え、教育者、指導者の立ち位置から、自身の知恵や経験を後進に伝え、社会に貢献し還元したいという著者の一貫した想い。期待通りの内容でした。

本書が単行本として世に出たのは、2000年11月。恐らくビジネスパーソンが読むべき名著100選の類があれば、選ばれるべきベストセラーであり、ロングセラーの一冊と言えるでしょう。

前編では、世界を変えた3つの失敗と失敗の階層化をテーマに紹介します。

 

●失敗の定義と社会発展に貢献した三大事故

上記2点の本題に入る前に、冒頭で示される、失敗の定義と科学技術の側面から社会的な発展に多大な貢献を果たした3つの失敗を紹介します。

失敗学における失敗の定義とは、

「人間が関わって行うひとつの行為が、はじめに定めた目的を達成できないこと」

と定義しています。

 

そして、著者が東大工学部の機械系を専攻した新三年生に必ず話をする過去の三大事故とは?

素人でも何となく分かりそうな常識的なこと、しかも、科学技術の分野で、わずか一世紀にも満たない前には、未知のものとされていた事には驚きでした。少し長くなりますが、ここで紹介します。

 

1.1940年 アメリカ ワシントン州 タコマ吊り橋の崩壊

吊り橋設計では、最先端の技術を持つ設計士が関わった吊り橋が完成からわずか4カ月後、秒速19mの横風により崩壊

→風により橋桁が動かされ、その振動によって、他の箇所が共振する「自励振動」が当時は未知のものであった。

 

2.1954年 イギリス デハビランド社旅客機の空中爆発

デハビランド社 コメット機が世界初のジェット旅客機として路線就航したのが。1952年。翌年には、世界で47機が就航、しかし、就航から2年後の1954年、2機が相次いで空中爆発。

→その当時、機体金属の耐久実験が、実際の旅客機が飛ぶ環境と同条件では行われず、金属疲労の寿命の計算を誤ったこと。また、金属疲労には不思議な性質があり、10の力を加えた時に100万回の動きに耐えられるものが、20の力では100回の動きにしか耐えらえないといった性質があるということ。

 

3.1942年 アメリカ 輸送船の連続破壊

第二次戦時中、アメリカでリバティー船と呼ばれる1トン程度の輸送船が4,700隻以上造られたが、1942年から1946年にかけて、1,200隻以上が航行中に破壊。

→鉄の伸縮性が温度が下がることで完全に失われることにより、溶接箇所等に大きな力が加わると、力を逃がすことが出来ずに破損。こうした低温脆性と呼ばれる鉄の特性がその当時は未知のものであった。

 

3つ目を例を挙げると、破壊箇所の現象面だけを見れば、溶接箇所の強度が足らず、造船に溶接は相応しくないと判断が下されるところ。しかし、失敗から学び、その原因を追究したことにより、人類は、大型船や吊り橋、ジェット機の恩恵に預かっているということです。

 

●失敗の階層化

失敗を学問として高め、失敗そのものの分析、構造化する本書。

前半でのハイライトと言えるのが、失敗の種類や特徴、そして、失敗を階層化する箇所と言えるでしょう。

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本書では、2000年代の初めに起きた、雪印の乳製品による集団食中毒問題を例に解説がされています。

 

今でも記憶に新しいこの不祥事が報道された当初は、工場の乳製品製造機器の杜撰な衛生管理に起因するものだったかと思います。その原因として、マニュアルに従わなかった従業員、それを管理せず見過ごしていた工場の管理者という図式が浮かび上がります。しかし、実態は、過度な残業が日常茶飯事で製造現場は疲弊していたということ。

失敗原因の階層になぞれば、雪印の不祥事は、個人や組織の問題ではなく、その要因は、企業経営におけるガバナンスがコンプライアンスに問題があったということ。さらに、こうした管理を体制を監督するはずの行政の怠慢と見ることも出来るが、応々にして、階層の上にいるものは、失敗の責任を下の者に転嫁することがよくあることを指摘しています。 

 最近頻発している医療ミス問題でも、病院側が管理の不備、経営の問題を認めず、一看護婦(原文のまま)のミスとして問題を処理しようとするケースをしばしば見かけます。階層性に存在するこうした問題を理解しないことには、やはり真の原因が見れてこないのがまさに失敗の持つ特性のひとつなのです。

 筆者によれば、この階層は上位に行くほど、失敗した時の社会的な影響や及ぼす規模も大きくなるとしています。

つまり、世界の三大失敗は何れも未知への遭遇であったため、社会的影響力も強く、そ

 

研究者の立場に加え、「失敗学」を通して、教育者、指導者、そして、自身の知恵や経験を後進に伝え、社会に貢献し還元したいという著者の一貫した強い想い。期待通りの内容でした。

次回、後編に続きます。

 

失敗学のすすめ (講談社文庫)

失敗学のすすめ (講談社文庫)

地球の裏側で起きていること「スマホから考える 世界・わたし・SDGs」教育プログラムレビュー

わたしたち消費者は、自分たちが身近に使っている製品がどのような工程で生産されているのか、および、その工程において人権侵害にあたるような問題が起きていないかどうかを「知る権利」、そして「予防する権利」を持っています。

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皆さんは、「フェアフォン」という取り組みを知っていますか?

もともとは、スマートフォンを製造するための鉱物資源のフェアな調達を目的に、2010年、オランダで立ち上がったキャンペーンのこと。

キャンペーンを通して、様々な声をスマートフォンメーカーに届ける活動をしてきましたが、いっこうに改善されず、キャンペーン立ち上げの中心人物自らが、フェアなスマートフォン作りを実現しようと設立したのが フェアフォン社

www.fairphone.com

フェアフォン社は、もともとのキャンペーンの目的やその社名の通り、原材料のフェアな調達から、製品のリユース、リサイクルの実現に加えて、製品の一部が壊れてしまった場合でも、自分で部品を交換できたり、部品交換の際の交換マニュアルを公開する取り組みを実現しています。

なかなか目にすることがない自社でスマホの交換用パーツ販売もしていますので、アクセスしてみて下さい。

 

さて、先日は、NPO法人 開発教育協会が主催するイベントで「スマホから考える 世界・わたし・SDGs」の体験ワークショップに参加してきましたが、その内容が大変素晴らしいものでした。そこで、今回は趣向を変えて、そのカリキュラムのレビューを紹介しましょう。

 

体験ワークショップで行われたプログラムは、こちらの教育教材をベースとしたもの。

www.dear.or.jp

 

 教材の内容のざっくりした構成は、以下の通りで、

・携帯電話~スマートフォンの歴史

・スマートフォンの原材料調達から製品化までのサプライチェーン

・原材料調達段階での紛争鉱物問題

・製品製造段階での工場での人権問題

・スマートフォンから紐解くSDGsとわたしたちができること

これらの構成の中、様々なグループワークが組み込まれ、ワークショップが実践できるテキストになっています。

 

ここでは、後半の「工場での人権問題」の内容を紹介しましょう。

実際に中国の工場で起きていることを取材し、このスマートフォン製造が及ぼす人権問題のプログラムが作られたとの事。

ワークショップで行われたのは、参加者自らが、以下構図の登場人物になりきって起きている課題の解決を果たそうと討議を進めます。

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「スマホから考える 世界・わたし・SDGs」教材テキストより

ワークショップ当日は、6名で構成されるグループが5つあり、1グループの中で、一人ひとりが以下の役割に割り振られ議論が進みます。

・日本の消費者

・スマートフォン・メーカー

・中国政府

・製造工場幹部

・製造工場従業員

・国際人権NGO

当日の場を仕切るファシリテーターからは、今、起きている問題が提示されますが、その課題を6者の立場から議論を進めていきます。

先程述べた様に、ワークショップ当日は、こうしたグループが5つあるため、ワークショップの場には、同じ役割を担う参加者が5名いることになります。

 

各グルーブごとに、活発な議論が進みますが、ワークショップ参加者個人の感情や思いではなく、与えられた役割の立場から解決を図ろうとするため、当然ながら全員が納得する解決策のとりまとめには至りません。

そこでファシリテーターから同じ役割の5人がその役割ごとに集められ、作戦会議の場が設けられ、再度自分のグループに戻り、議論を進めるわけですが・・・

 

まさにこれといった正解がない問題に取り組む難しさ、国境や立場を超えたロールプレイでの議論の醍醐味。

きちんと作り込まれた教育プログラム、ワークショップ・カリキュラムってこういうものなんだと実感した、とても素晴らしいワークショップ体験となりました。

 

そして、ワークショップ体験を通して、タイトルに含まれる「SDGs」がただのお飾りではなく、その役割をきちんと果たしていることが体感できたこと。それは、「サプライチェーン全体を通した課題把握」の重要性、そして、「誰一人取り残さない」という、SDGsに取り組む際のポイントや基本理念がプログラムにも忠実に反映されていること。

 

公益財団法人 消費者教育支援センターの優秀な教材を表彰する場でも、2018年度 優秀賞に選ばれた本教材。本当に素晴らしい内容でした。

 

開発教育協会でも紹介されていた、スマートフォンを通して社会課題を知るための動画コンテンツも併せてご覧下さい。

 

●『スマホの真実―紛争鉱物と環境破壊とのつながり』紹介映像

youtu.be

 

●『10年間でつくられたスマホ、71億台!』

youtu.be

 

『ムクウェゲ医師の闘い ~なぜ、コンゴの悲劇は終わらないのか』

(ザ・フォーカス 2019年2月3日放送)

youtu.be

 

現在、日本では、毎年3,000万台以上が流通し、同等の数が廃棄されているスマートフォンと携帯電話。今、私たちに出来ることはなんだろうか?

 

人生 書くか、書かないか「読みたいことを、書けばいい。」ブックレビュー

わたしのこの本を読んで、事象に触れたら調べてみよう、そして生じた心象について自分も書いてみよう、と思った人がいたら、まずは自分が読んでおもしろいと思えるものを書いてみてほしい。自分が何度も読んで、過不足なく、なにかが書けたと思ったら、ぜひどこかに発表してほしい。いまは、ネット上に自分の文章を載せるスペースは無限にある。

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タイトルと糸井重里さんの帯に興味を持ってamazonで購入した本書。届いて本書を見て、文字フォントと余白の大きさに驚きながらも、あっという間に読了。

副題に、「人生が変わるシンプルな文章術」とありますが、一般的に想像できる文章を書くためのテクニックに関する内容はほんとんど含まれないのが、本書の最大の特徴と言えるでしょう。

電通で長年コピーライターを務めた後、2016年にフリーランスのライターとして執筆活動を開始、本書が初の著書との事。某党の様に、述べられることはワン・テーマ。

読みたいことを書けばいい・・という割には、読者へのサービス精神溢れる内容の一冊でした。

 

●書くことWHY

本書の主題は、タイトルの通り、「自分が読みたいと思うことを書いて、発表の場を作れ」ということ。なにを書くのか、だれに書くのか。どう書くのか、なぜ書くのか の4章で構成されますが、一貫して述べられるのは、自分のために書くということ。

冒頭に書いた通り、世の中によくある文書の書き方や作法に関する本ではありませんので、タイトルには偽りあり、しかし、それを補って有り余るほどの、なぜ書くか?書くことへの本質に触れた内容でした。

伝えていることはその一つだけ。書面のフォントサイズや余白と併せて、How toモノとして得るところは限られますが、読者への残す記憶ということでは、インパクト大の一冊でした。

 

●貨幣価値と言語

書くことの本質に触れる本書。その中でも最もピンときたのは、第4章 なぜ書くのか で展開される、貨幣と言語の機能のこと。

貨幣の価値は、以下3点を挙げた上で、

・決済手段(支払手段)としての機能

・価値尺度としての機能

・価値貯蓄手段としての機能

貨幣と言語は、同じ機能を果たしていることが展開されます。

大切なことは、経済も、言葉も、ゼロサムゲームではないということだ。先ほど「価値を手に入れたいとき、人は犠牲を払う」と書いたが、等価で交換できると踏むから、経済では「おかね」を払い、コミュニケーションのやり取りでは、相手も役立てることができる「ことば」を相手に返すことになる。

言葉とは、相手の利益になる使い方をすれば、相手の持ち物も増え、自分の持ち物も増える道具なのだ。書いたら減るのではない。増えるのである。

 

amazonでも、両極端なレビューが散見される本書。誰からも手放しで称賛されるよりも、書きたいこと、伝えたいことを自由に表現した一冊、ここのところ、毎週ブックレビューをアップしている身として、共感できる一冊でした。

 自分が読みたくて、自分のために調べる。それを書き記すことが人生をおもしろくしてくれるし、自分の思い込みから解放してくれる。何も知らずに生まれてきた中で、わかる、学ぶということ以上の幸せなんてないと、わたしは思う。

 

読みたいことを、書けばいい。

読みたいことを、書けばいい。

 
 

いつやるか?ではなく、いくらにするか?「気候変動クライシス」ブックレビュー

無制約な人間の衝動ーまちがった制約を課された人間の衝動と言うべきかーこそは、現在の惨状を引き起こした真犯人だ。適切に振り分けた人間の欲望と創意工夫は、真の社会的費用を反映した十分に高い炭素価格に導かれれば、この惨状から逃れるための最高の希望なのだ。

f:id:changein:20190727083733j:plain  気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第5次評価報告書によれば、世界の平均気温は、1880年から2012年の期間に0.85℃上昇、大気中のCO2濃度は、産業革命前に比べて40%も増加しました。

※IPCCとは、地球温暖化に関する調査研究のため、世界から集まった約200人の研究者で構成される機関。2007年には、アル・ゴア元アメリカ副大統領と共に、ノーベル平和賞を受賞。

 

また、東京の30℃以上の真夏日は、現在、年間45日程度ですが、21世紀の終わりには、100日を超える、つまり年間の3割弱が、真夏日になることが気象庁により予測されています。 

日本に暮らしているとなかなか実感できない気候変動や地球温暖化ですが、台風でもないのに局地的なゲリラ豪雨が人命を奪う大災害につながったり、何よりも猛暑日が増えて熱中症の患者が増えたり・・、昔と比べて気候や気温の変化を肌感覚で感じることが出来るでしょう。 

 

本書を著した二人のハーバード大学教授は、環境科学と経済学がその分野。特に、経済学者のマーティン・ワイツマン教授は、環境分野における研究では、ノーベル経済学賞に最も近い候補の一人と言われています。

 

●地球温暖化は人間の仕業:否定論とフリーライダー


地球温暖化がもたらす気候変動は、取り返しのつかない状況になっていること。そしてその原因が、人間がもたらした結果であることがほぼ科学的にも証明されているのも関わらず、それを否定する勢力があること。この人間がもたらした結果かどうかの議論は、すでに終息していると考えていいでしょう。


I地球温暖化が人為的活動により引き起こされているかどうかのIPCCの主張

1995年:可能性が比較的高い

2001年:可能性が高い

2007年:可能性がとても高い

2013年:きわめて可能性が高い

(本書より)

 

地球温暖化の原因が人間であることは100%と確信はできないまでも、その結果を待っている余裕はなく、切迫した問題であること。

そして、もう一つの問題としてあげられるのが、フリーライダー問題。

 

近所に迷惑をかけようという活動を究極にまで推し進めたものだが、その近隣所というのは人類70億人全員だ。行動にかかる費用が、その行動で自分一人にもたらされる便益よりも高いのであれば、わざわざ行動なんかしなくていいだろう?人々の行動の総便益は、費用を上回るかもしれない。でも便益は他の70億人にも割り当てられるし、一方の費用は自分一人が全額背負う。同じ理屈が他のみんなにも当てはまる。共通の利益にかなうことをやってくれる人はあまりに少ない。

本書によれば、地球温暖化問題を児童労働や奴隷制度と同じ様に、道徳的な理由により、避ける問題とすることが理想としていますが、今はその段階にはない。

では、その解決策と今後対策はどうあるべきかというのが本書の主題となります。

 

●炭素税の導入とジオエンジニアリングのリスク

 

本書で繰り返し述べられているのが、地球温暖化を食い止めるには、温暖化ガスに排出を抑えるための炭素税の導入が現時点ではもっとも効果的な処方箋であることが述べられています。

 炭素税とは、温室効果ガスを排出した分に応じて税金を負担しようする仕組み。

 

炭素税の導入に関しては、産業界にコスト負担が生じ、そのコストが消費者にも転嫁されることが反対論者からは挙がります。しかし、地球温暖化後の気候変動がもたらす対策費用を考えればそうした議論そのものを控える必要がありそうです。

 

本書によれば、気候変動がもたらすリスクは、現時点では科学的にわからないものも多く、極めて不確実性が高いもの、そして、その被害見積もりは今よりももっと上積みされるべきと結論づけています。

 

諸外国の炭素税導入状況等はこちらをご覧下さい。北欧は炭素税導入先進国と言えます。

 地球温暖化対策税と炭素税について(環境省 地球環境局)

 

そして、本書で指摘されるもう一つの主題が、地球工学、気候工学と言われる、ジオエンジニアリングの事。

 

簡単に言うと、人口的に雨を降らせたり、太陽の光を地球レベルでコントロールすることですが、この議論が活発化したのは、フィリピンのピィナトゥボ山の噴火がきっかけとなっている様です。

噴火により、大量の硫黄が大気中に吐き出された結果、翌年、地球の気温が0.5℃下がったため。しかし、比較的低コストで出来てしますこうした策は、生物や地球環境にどういった影響を与えるのは、不透明でそうした研究も進んでおらず、副作用やリスクも大きいことが指摘されています。

 


気候変動・地球温暖化問題待ったなし。

「我々は、貧困を終わらせることに成功する最初の世代になり得る。同様に、地球を救う機会を持つ最後の世代にもなるかも知れない。」

まさに、SDGsの採択理念を今、私たちが担うことが求められています。www.jccca.org 

気候変動クライシス
気候変動クライシス
  • 作者: ゲルノットワグナー,マーティンワイツマン,Gernot Wagner,Martin L. Weitzman,山形浩生
  • 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
  • 発売日: 2016/08/26
  • メディア: 単行本
  • この商品を含むブログ (3件) を見る
 

 

 

ロマンチストたれ!「HBR ムーンショット」 マガジンレビュー

従来の常識の枠組みから離れ、大胆な考え方からスタートすることで、新規事業成功への道筋をつけられる。また、大きな目標を掲げることで、多くの従業員や取引先を鼓舞し、ふだん、獲得できない人材を引き付けて、事業における成功確率を高めることもできるだろう

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アポロ11号が月面着陸を果たしたのは、今からちょうど50年前の7月20日。
そこからさかのぼる事10年前、アメリカのケネディ大統領が提唱したのが、そのプロジェクト実現を目指す「ムーンショット」。
 
今回の題材は、ハーバード・ビジネスレビュー 2019年8月号の中から、特集記事冒頭を飾る「ムーンショット経営で世界を変える」から。
 
筆者は、銀行マンを経て、ヒト型ロボットをグーグルに売却後、シリコンバレーを拠点に、世界の水道管劣化という全世界共通の社会課題解決に取り組むために、Fracta社を創業。

その連続起業家が説く「ムーンショット」とは何か?

●ムーンショットの要素と日本での取組み
 
記事の中で紹介されているムーンショットに欠かせない要素とは以下の3点。
 
・人々を魅了し奮いたたせるもの
→ワクワクする未来を人々に感じさせるもの
 
・信憑性のあるもの
→夢物語ではなく、技術トレンドを見極めたもの
 
・創意あふれる斬新なもの
→過去の延長線上ではなく、新しい世界を感じられるもの
 
アメリカでは、グーグルグラスやグーグルカーのプロジェクトを立ち上げたグーグルを中心として民間企業が中心ですが、日本では、国の研究政策での議論が中心との事。
 
首相官邸のページに掲載されているプロジェクト、「ムーンショット型研究開発制度に係るビジョナリー会議」は、今年度立ち上がり、すでに活発な議論が進められている様です。
 
ちょっとした驚きが、それら議事をまとめるために、グラフィックレコーディングも採用され、Webサイトでも共有されていること。

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首相官邸Webサイトより

完全版を是非、Webサイトでも確認してみて下さい。

 

そうした中、記事の中で、日本企業の取組みとして紹介されるのが、総合商社の丸紅でした。

 

2030年に向けた長期的な企業価値向上を追求することを目標に、今後3年間で新規投資を9,000億円行うというもの。その中でも、

・5G、デジタル技術、ブロックチェーン

・次世代金融サービス事業

等の丸紅としては未知の領域に2,000億円を投じ、しかも、その範囲の投資の関しては、3年間、利益に貢献しなくてもいいという経営判断がなされていること。筆者はそれを「ムーンショット経営」として評価できるとしています。

 

●経営にムーンショットを取り込む

 

では、民間企業がムーンショットを企業経営に取り込む際のポイントは何か?

ここでは、筆者が挙げるいくつかのポイントを紹介しましょう。

 

・ビックシンカーであること

もともと銀行マンだった筆者は、企業再生に関わっていたそうですが、経営再建に求められるることは、コスト構造の見直しと売上のセグメントの見直し。つまり、単年または、数年程度の改善を見込むことは出来ますが、画期的なイノベーションを起こすことはできず、そうした企業再生が物足りなくなって、自らが事業を創造する立場へと転身したとの事。

そこで必要なのがムーンショットのように考えるということだ。3ヶ年事業計画のスパンではなく、10年後にどうありたいかを強烈にイメージし、思考の枠組みを広げていく。

 

・成長を促すコーポレートガバナンスであること

特に日本企業は、ガバナンスの強化のより、取締役会や監査役、社外取締役等は、リスクマネジメントの観点から、社長のブレーキ役になっていることを指摘しています。

リスクに寛容で成長を希求するガバナンスの体制をどう構築するのかが、ムーンショット成功のカギとなるだろう。

 
・ロマンチストであること
ムーンショットのアプローチは、10年後を見据えたワクワクする未来を考えること。もちろんそれは、ファンタジーとはならない技術的裏付けがあることが求められます。そして、ムーンショットは、これまでのケーススタディを参考にしたり、フレームワークを用いる従来のMBA的な経営アプローチとは異なるものであるということ。
ムーンショット経営とは、「こういうことを世の中に起こしたい。そのためにはこの技術が必要だ」と着想し、10年越しの大きな目標を掲げ、そして大きな予算措置を講じ、その目標の実現に邁進していくというアプローチなのである。
 
 
ムーンショットとは、未来を描き、10%の改善ではなく、10倍を目指すこと。
それは、エクスポネンシャル思考であり、MTP(Massive Transformative Purpose:野心的な変革目標)、バックキャスト思考そのものでした。
過去の以下記事もご覧下さい。

 
最後に、人類による月面着陸計画の発表後、ケネディ大統領のライス大学での講演内容を紹介しましょう。
我々が10年以内に月に行こうなどと決めたのは、それが容易だからではありません。むしろ困難だからです。この目標が、我々のもつ行動力や技術の最善といえるものを集結し、それがどれほどのものかを知るのに役立つこととなるからです。その挑戦こそ、我々が受けて立つことを望み、先延ばしすることを望まないものだからです。そして、これこそが、我々が勝ち取ろうと志すものであり、我々以外にとってもそうだからです。
 

古い船をいま動かせるのは 古い水夫じゃないだろう 「ニュータイプの時代」 ブックレビュー

 「問題解決力」は今後、どんどん低価格化が進み、供給過剰の状況になる一方で、当の「問題」は見つけることが難しくなっています。このような社会にあっては、「問題を解ける人=オールドタイプ」よりも「問題を発見し、提起できる人=ニュータイプ」こそが評価されることになります。そして、そのためのカギとなるのが「社会や人間のあるべき姿を構想する力」だということになります。

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ビジネス書分野で最も注目される著者の一人、山口周さん。
今回は、その著者の最新刊「ニュータイプの時代~新時代を生き抜く24の思考・行動様式」を紹介しましょう。
 
ここで定義されるニュータイプとは、人材、つまり、従来の望ましい人材要件から、「今後の望ましい人材要件」のこと。

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本書より
テクノロジーの進化や社会構造の変化によって、ビジネスパーソンや企業に求められること、有り様も変わっていくだろういう。つまり、不確定な時代、予測することが不可能な時代では、これまでの常識や価値観を変える、正確に言えば、これまでの知識や知恵、経験に加えて、新しい価値観となるありたい姿を描く構想力、直感や真・善・美といった自身の判断基準とをしなやかに使いこなす必要があるということです。
 
ビジネス書のカテゴリーの本書ではありますが、これからの時代、ヒトとしてどう生きるか?を問う、カオスな社会に適応した自己啓発書と言えます。
 
●メガトレンドを理解する
 
まず最初に挙げられるが、ニュータイプの人材が社会の要請としてある6つのメガトレンドが紹介されています。
1.飽和するモノと枯渇する意味
2.問題の希少化と正解のコモディティ化
3.クソ仕事の蔓延
4.社会のVUCA化
5.スケールメリットの消失
6.寿命の伸長と事業お短命化
 正解のコモディティ化に関しては、前書

世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 経営における「アート」と「サイエンス」 (光文社新書)

に書かれていたことですが、改めて、IBMのディープブルーやワトソンを例に解説を加えています。
 
・1997年:チェスの世界チャンピオンに勝ったディープブルーの翌年の販売価格は約1億円
→現在、量販店で売られている家庭用PCと同等程度
 
・2011年:ワトソンがアメリカのクイズ番組 ジャスパーでクイズ王に勝利
→当時1億円だとしてもムーアの法則に当てはめれば、その価値は近い将来100万円程度
 
こうしたテクノロジーの進化が進めば、将来、ソフトバンクのペッパーの様やロボットは、家庭に一台どころが、スマホの様に一人一台、もしかしたら、企業が販促用に無料で配布する様な社会になるかもしれません。
 
●「希少なもの」を目指す
 
そうした時間の到来により、例えば、現在の花形職業の一つであるデータサイエンティストもその役割が違ったものになるでしょう。
 
テクノロジーの価格の低下が進めば、正確に処理をして正確な解を求めることは、AIに任せて、何を課題として問いを立てることが重要となることは容易に予想できるでしょう。
これが、筆者が繰り返し述べる、ニュータイプに求められる「問題発見能力」や「意味」ということになります。
 
本書では、今の社会で「過剰なもの」と「希少なもの」の対比が掲載されていますが、需要と供給の市場原則の通り、「希少なもの」を生み出すことが求められるとしています。

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本書より
このリスト一覧すれば結論は明白です。「過剰なもの」がことごとく「論理と理性」によって生み出されているのに対して、「希少なもの」はことごとく「直感と感性」によって生み出されています。つまり、現在の社会において「希少なもの」を生み出そうとするのであれば、「直感と感性」を駆動せざるを得ない、ということです。
 
●「意味がある」と「役に立つ」
 
本書を通して、納得感溢れる内容だったのが、縦軸が「役に立つ」で、横軸が「意味がある」のフレームワーク。

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本書より

自動車メーカーを例にケーススタディが展開されますが、「役に立つ」はレッドオーシャンになりがちで、寡占化が進み、ごく少数の企業しか生き残れないこと。そして、「意味がある」の自動車メーカーの例として、フェラーリやランボルギーニを例として挙げられています。
移動手段としは二人乗りで荷物を積むこともできない「役に立たない」車が日本車の10倍以上の値付けにも関わらず、何ヶ月ものバックオーダーを抱え、なぜ、中古車市場ではプレミア価格となるのか?
 
また、意味を追求するフレームワークとしては、あのサイモン・シネックが提唱したゴールデン・サークル同様、WHY・WHAT・HOWの話が展開されますが、アポロ計画のケネディ大統領とグーグルのゴールデン・サークルにより、分かりやすく解説されています。
 
サイモン・シネックの本WHYから始めよ! インスパイア型リーダーはここが違う  では、ライト兄弟でしたが、本書では、WHYと同様に内発的動機の重要性に触れ、南極点到達点レースでのアムンセム隊のエピソードが紹介されていました。
 
そして、この意味に関して、本書での興味深い発見の一つが、日本のLLCエアライン、ピーチのWHY。
本書では、著者がピーチの社長にインタビューした際のエピソードが紹介されていますが、ピーチのWebサイトを確認すると、フィソロピーのページに直接的ではありませんが、その一端が伺えました。ちょっとした感動を覚えます。
なぜ、ピーチはLLCとして事業をはじめたのか?ピーチのWHYは是非、本書で確認して下さい。
 
 
全体を通して、著者が提唱する新しい時代の人間像に加え、組織やキャリア構築、学習方法まで、その仮説をこれでもかという位、様々な事象や多くの過去の文献の引用により、を丁寧に検証し、説得力を持たせている本書。
 進化の止めることのない人工知能の前に立ちすくんで「誰ば仕事を奪われるか」などという予測をして、その予測に振り回されても仕方がない。このように不毛な予測に時間と労力をかえ、出てきた予測に一喜一憂しているオールドタイプは環境変化に引きずり回され、人生のイニシアチブを失うことになるでしょう。
一方で、進化するテクノロジーを用いることで、現在の社会が抱える課題をどのように解決できるかを考えるニュータイプは、環境変化を自らのチャンスに変えていくことで、大きな豊かさを生み出していくことになるでしょう。

世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 経営における「アート」と「サイエンス」 (光文社新書) 同様、今年下半期 オススメ本の一冊になるでしょう。

 

ちなみに、山口周さんの本に出会ったきっかけは、数年前、この本を書店で手にとったこと。

外資系コンサルの知的生産術?プロだけが知る「99の心得」 (光文社新書)

 コンパクトな新書ですが、ランダムに何度も読み返す機会の多い個人的なバイブルになってます。

 

※冒頭のタイトルは、吉田拓郎 デビュー曲「イメージの詩」歌詞の一節より引用

ニュータイプの時代 新時代を生き抜く24の思考・行動様式

ニュータイプの時代 新時代を生き抜く24の思考・行動様式

 
外資系コンサルの知的生産術?プロだけが知る「99の心得」? (光文社新書)

外資系コンサルの知的生産術?プロだけが知る「99の心得」? (光文社新書)