顕在化する新しい社会課題 「クジラのおなかからプラスチック」 ブックレビュー
プラスチックをどのようにリサイクルすればよいのか。プラスチックをできるだけ使わないようにしたとき、かえってむだやごみが増えるのではないか。どうすれば資源の節約になり、しかもプラスチックごみで汚れていない地球でくらすことができるのか。プラスチックは、わたしたちの生活に深く入りこんでいるだけに、さまざまな社会の問題とも結びついています。
現在大阪で開催中のG20サミットでも主要なテーマの一つとして挙げられる海洋プラスチックごみ問題。最近、グローバルでの社会課題として注目される新たな環境問題と言えるでしょう。
また、2018年10月に発足された「New Plastics Economy Global Commitment」では、プラスチックの削減を目的に、既に400以上の企業や自治体、団体等が署名をしていますが、今のところ、日本からの署名はゼロ。
「市民」には、おおきく分けて二つの意味があります。一つは、「その市に住んでいる人」という意味です。(中略)もう一つは、「自分が暮らしている社会について、さまざまな人の立場になってきちんと考える人」という意味です。
最後に・・、小学生の頃は、母親がかまぼこの板で作ってくれた「保坂研究所」という札を自分の部屋の入り口に下げていたという微笑ましいエピソードを持つ著者。新聞記者から博士号を取得後、サイエンスライターとして環境をテーマとした多くの本を著しています。
どうやって始めようか?の疑問に答える 「SDGs入門」 ブックレビュー
新たな事業の種を探したい経営者にとって「企業の力を必要としている」SDGsは、宝の山と言えます。それは、SDGsがなぜ必要か、の裏返しでもあります。世界を現状のまま放置しておくとひどいことになる、とすれば、それを回避してより豊かな世界にすることに貢献できる事業であれば、世界に大いに歓迎されます。
バブルと思える程、続々と発売させるSDGs関連書籍。今回紹介する新書は、恐らく現時点では最新刊の一冊。
題名の通り、これからSDGsに取り組もうにも、何から始めたらいいの?といった悩めるビジネスパーソンには最適な入門書と言ってもいいでしょう。
本書全体の構成は、
第1章 まずはSDGsを理解しよう
第2章 SDGsとビジネスはどう結びついているのか
第3章 SDGsに取り組むときのヒント
第4章 SDGsにビジネスで貢献する
第5章 SDGsの取り組みテーマを選ぼう
冒頭ではSDGs関連本には必ず語られる、SDGsが採択された背景やMDGsからの流れなど、基本情報が述べられます。以降の章では、企業が取り組む際の考え方やプロセスに加え、最終章では、日本で注目される9つのテーマに絞り、そうした社会課題がクローズアップされる背景や、それぞれのテーマに取り組む先進企業が紹介されます。
ここでは、第2章のESGとSDGsの違い、そして、第4章のビジネスに組み込む際の考え方、さらに、SDGsを考える上での企業理念との関連性について、3つのポイントに絞って紹介しましょう。
●ESGはプロセスだSDGsはゴール
SDGsの採択やパリ協定の合意された頃、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が署名したことにより、改めて注目されたPRI(責任ある投資責任)。当時のアナン国連事務総長がPRIを提唱したことに始まり、当初は機関投資家や金融関係者向けだったESGですが、最近では投資に加え、経営とも結びつき、広く知られるキーワードとなりました。
SDGsと並んで用いられることが多いESGですが、第2章の最後に、両者の共通点や相違点が、ESGはプロセスでSDGsはゴールとして、シンプルな表でわかりやすくまとめられています。
本書より
●ビジネス組み込みの内発的な動機付けと自由度の許容
企業向けにSDGsの講演やワークショップも行う筆者の本書でのハイライトは、ビジネスに組み込むその手法を説明する第4章にあると言えるでしょう。
最も共感できたのは、検討スタート時点におけるこのアドバイス。
今ある事業や強みに引き付けた議論が行われることでしょうか、この段階では実現可能性にはあまり引っ張られず、「とにかくこれをなんとかしたい」という意識の共有が大切です。(中略)「あなたの関心」を強調するのは、誰かに言われてやるのではなく、自分から沸き上がってくるような力こそが、大胆な変革を求めるSDGsの取り組みに求められているからです。
SDGs取り組みの議論として、「そうした事はすでにやっている」といった反応が必出ますが、SDGsのゴールはサステナブルな世の中を作ること。従来のCSRでそうした世の中が実現できているかと考えれば、課題満載の社会の中でさらに一歩踏み出して、野心的な取り組みが求められます。
また、第3章の冒頭には、検討するためのツールとして、SDGコンパス等も紹介されています。SDGコンパスの基本的な考え方の一つにアウトサイド・インのアプローチ つまり、自社基点ではなく、社会課題を基点としてビジネスを考えるということですが、そうした国連が提唱する検討プロセスは基本にあり、バック・キャスティングの考え方や、検討を進める際のロジックモデルも提示されています。一方で、本書では、上記にもある様に、興味関心事を起点としてもいいと述べられていること。
推進する上で、もっとも重要なのは、企業視点でもなく、社会課題視点でもない、内発的な動機付けという事でしょう。
●経営理念とも向き合う
最後にもう一点、第3章 SDGsに取り組むときのヒント の中で「会社の経営理念を確認しよう」というユニークな指摘を紹介しましょう。
創業や経営の理念や精神としてまとめられた言葉にこそ、その企業の価値観、大事にする方向性が凝縮されていると考えられます。SDGsやサステナビリティのような長期的な課題に向き合う際には、「わが社の価値観」との整合性を確認しておくことも、周囲を説得する際のポイントとなります。
SDGsに関する基本知識やビジネスとして取り組む手法やケーススタディまでを網羅しながらも分かりやすくコンパクトにまとめられたオススメの一冊でした。
重要視されるブランドの4つの要素とは? 「ニューヨークのアートディレクターがいま、日本のビジネスリーダーに伝えたいこと 世界に通用するデザイン経営戦略」 ブックレビュー
日本の次世代を担う子どもたちが、めまぐるしく変化していく環境や社会で生き残っていくためには、固定観念にとらわれず、クリエイティブに問題解決をしていく力が必要です。「本来のデザイン」をしていく上で必要な、社会を先読みする力、洞察力、柔軟性といった力を学ぶことが可能になり、どんな状況でもクリエイティブに解決していける人材の育成は、日本の豊かな未来につながることだと思います。
アメリカ コカ・コーラの新商品ブランディングやパッケージデザイン、MTV、国連等のアートディレクションを手掛け、世界的にも高い評価を得ている、ニューヨークで活躍する日本人アートディレクターが著した、
・グローバル・スタンダードのブランディング
・現時点におけるブランディングの世界潮流
を中心にまとめられた本書。
そして、タイトルにもある様に、本書を通して一貫しているのは、世界に通用するデザイン経営戦略として、日本の経営者が知って欲しいことを、世界的に活躍するアートディレクターの立場から危機感をもって伝えていること。
●日本人の考える「デザイン」とは、見た目の良さだけ?
まず述べられるが、日本人のデザインに対する誤解。
著者が定義する「デザインする」とは、
- クライアントをよく観察し
- 課題や問題点や強みを見極め
- オーディエンスや時代、市場を考慮し
- 問題解決する方法を柔軟にクリエイティブに考え出し
- それを可視化して伝わるかたちに落とし込んでいく
日本が捉えるデザインと言えば、見た目の造形やグラフィック・デザインを想像しがちですが、デザインとはあくまで問題解決の手段であるということ。
●ブランディングの観点からの世界の潮流
本書の中で、最も興味深かったのは、良いブランドの条件として挙げられる13項目のうち、近年重要視されている以下の4項目を挙げていること。
SOCIAL:社会貢献の要素がある
ENVIRONMENTAL:環境に優しい
GOVERNANCE:企業論理/ガバナンスがある
EMOTIONAL:感情を引き出す
著者が挙げる4点のうち、3点はESG(Environment・Social・Governance)に関連するもの。2019年4月にアップされた以下の記事によれば、ESG投資の市場は年々拡大しており、金融投資の世界とアートディレクターが考える重要なブランドの要素と符号する結果でした。
【金融】世界と日本のESG投資「GSIR 2018の結果」。日本のESG投資割合18.3%と大幅飛躍 | Sustainable Japan
そして、4つ目の要素が「感情を引き出す」こと。つまり、価格や機能面ではなく、情緒的価値を訴求するということでしょう。
いまの時代のブランドの流れとして非常に重要なのが、繋がりや共感。よって消費者の感情を引き出すことが重要になっています。ストーリーテリング、ナラティブ、戦略的コミュニケーションなどがキーワードとなっており、消費者の感情を引き出し、ブランドの思いに共感してもらい、消費者にブランドとの繋がりを感じてもらうことに力を入れています。
著者が関わったコカ・コーラのポスターやボトルのパッケージデザイン他、関わったブランドのクリエイティブの本書冒頭数ページに掲載されるカラー写真、是非、本書を手にとってご覧下さい。
※コカコーラボトル生誕100周年記念ポスターのデザインに関する、著者自らが発信する記事はこちらから。
ニューヨークのアートディレクターがいま、日本のビジネスリーダーに伝えたいこと
- 作者: 小山田育,渡邊デルーカ瞳
- 出版社/メーカー: クロスメディア・パブリッシング(インプレス)
- 発売日: 2019/04/26
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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グロテスクな日本の食の姿 「フード・マイレージ」 ブックレビュー
突出したフード・マイレージに象徴される現在の日本のグロテスクともいえる食の姿は、まぎれもなく私たち自らが選択した結果なのである。であれば、それを少しでも健全な姿にもどしていくのも、私たち一人ひとりの選択によって可能であるはずだ。
まずは、本書のテーマであるフードマイレージの定義から。
フードマイレージとは、食料の輸送量と輸送距離を総合的・定量的に把握することを目的とした指標ないし考え方である。そして、食料の輸送に伴い排出される二酸化炭素が、地球環境に与える負荷という観点に着目するものである。
フード・マイレージの計算方法は、2トンの食料を300km輸送した場合は、2×300=600t・km(トン・キロメートル)という単純なもの。このフード・マイレージの数値に、二酸化炭素排出量を掛け合わせることにより、食料の輸送による環境負荷を定量的に把握することができるというわけです。
戦後のライフスタイルや食の嗜好の変化は、食の安全や食糧自給率の問題だけでなく、地球環境に大きな影響を及ぼし、日本人のフードマイレージは、先進国の中でも突出して高く、本書で指摘されるグロテスクと言われる日本の食。
その解決策として挙げられるのは、少しでも地元の旬のものをつまり、地産地消に繋がる買い物をとの事でありますが、最近読んだ社会課題に関する書籍同様、絶望的な気分になる一冊。
本書は、1982年に農林水産省入省し、現在は、大臣官房統計部数理官に従事、ライフワークとして、フード・マイレージの普及啓発に取り組む著者の渾身の一冊と言っても良さそうです。
ここでは、改めて日本の食の問題が地球環境に大きな影響を及ぼしているのか、を本書を紹介しましょう。
●日本の食と地球環境問題
なかなか日本の食の問題と結びつきにくい地球環境問題。本書では、以下、三つの観点があることを指摘しています。
- 日本が輸入する大量の食料の生産のために、輸出国の農地や水等の資源や環境に大きな負荷を与えていること
- 日本に大量に持ち込まれる食料が、日本自身の環境に負荷を与えていること
- 日本に輸入される食料は、長距離輸送の過程で大量の二酸化炭素を排出し地球環境に負荷を与えていること
一つ目の輸入国でよく言われるのが、バーチャル・ウォーターのこと。食料の生産には大量の水が必要とされるため、食料の輸入にも、仮想の水の消費つまり、バーチャルな水を大量に消費しているということ。
本書によれば、それぞれの食物の生産量に対して必要となる水の量は以下の通り。
とうもろこし:1,900倍
小麦:2,000倍
牛肉:21,000倍
さらに、水が豊富と言われる日本でも、このバーチャル・ウォーターの消費を考慮すれば、実に日本必要となる水の2/3は、海外に依存している計算になるということ。
二つ目は、私自身も初めて知ったことでしたが、大量の食料の輸出入は、地球上の窒素量に多大なアンバランスの影響を及ぼしているということ。なぜ、窒素バランスによる影響の内容までは触れませんが、人間の経済活動が自然本来の環境に影響を負荷を与え、アンバランスな状態を生み出しているということ。
三つ目の輸入による二酸化炭素排出の問題は、すぐに理解できるでしょう。
本書の帯に書かれた、大根 4kgの輸送に伴う、二酸化化炭素の排出量は、以下の通り。
そして、冒頭に述べた、日本の食は地球環境に多大な影響を与え、先進国の中でも突出して高いことを示すグラフはこちら。
遠くから食材を運んだり、保存するために無駄なエネルギーを使ったりすることなく、地産地消の食材を食べること、そのための食育が重要であることが本書でも指摘されるわけですが・・
私たち日本人は、突出したフード・マイレージに象徴されているように、食料に限らず大量の物質を輸入することによって、世界有数の経済規模と所得水準を実現しているのである。その日々の私たち自身の食生活が、地球環境にどのような影響を与えているかということについて、想像力を働かせていくことが必要とされている。
地球環境に与える負荷はもちろん、食の安全に加えて、本書では特に言及させていませんでしたが、フード・セキュリティの問題も・・日本の食に対する、多くの不都合な真実を知ることになった一冊でした。
いま、出来ることを少しずつでも、ハチドリの様に
著者運営 フード・マイレージ資料室もぜひ
非国家主体のアクションに期待 「地球温暖化は解決できるのか」 ブックレビュー
今世界を動かす最も中心にいる人たちが、低炭素・脱炭素行動に意欲を燃やしているのです。皆さんもこの将来性のある低炭素競争に参加しませんか?そこに向かって世界のお金が動き、人が集まり、技術が進み、ダイナミックに社会が変わりつつあります。
本書のタイトルになっている「地球温暖化は解決できるのか?」という問い。
結論は、このままでは、100年後には地球の平均気温は4℃を超えてしまう。そして、最も気温上昇を抑えることが出来ても2℃程度の上昇は避けられない。
つまり、地球温暖化はもはや避けられない事態になっているが、温暖化対策により、2℃未満の気温上昇に抑えるのか、それとも、今のライフスタイルを続けて4℃上昇する世界を招いてしまうかということ。
●もはや環境最後進国 日本
一般的な肌感覚として、気温が2、3℃上がっても問題ないじゃないかと思われがちですが、これはあくまで世界の平均気温。そして本書を読んで驚いたのが、1万年以上前の地球の温度。
今から1万5000年前の氷期の平均気温は、現在の平均気温よりもたった4度から7度低かっただけであることがわかっています。つまり平均気温が5度違うならば氷期になるような大きな変化を地球上にもたらすのです。しかもこれは1万年以上もかかって変化したものです、現在はたった100年間で平均気温を1度も上昇させるような変化を地球上に発生させています。
そして、本書を通して改めて実感したのは、地球温暖化対策とエネルギー問題やその政策は深く結びついていること。
さらに、1997年の京都議定書の頃、環境分野では世界でもリーダーシップを発揮していた日本が、パリ協定では、先進国の中でも温暖化対策には最も言っても差し支えない位、消極的で残念な国になってしまったことを痛感することでしょう。
●小説にも勝るノンフィクションのストーリー
本書の特筆すべき一番の醍醐味は、2015年 パリ協定の現場に立ち会った著者ならではの採択に至るまでの各国間の交渉の流れが詳しく書かれていること。
冒頭で述べた気温上昇を2℃未満に抑えること、それを長期目標として世界の国々全てが初めて合意できたのがパリ協定。
これまで、温暖化対策の国際会議と言えば、先進国と開発途上国の対立というのが交渉の構図でしたが、パリ協定では、温暖化対策の積極派と消極派との対立に変わったこと。
その変化の原動力になったのは、最も開発が遅れているグループに属するアフリカ各国やツバルやグレナダ等が属する島国連合。つまり、気候変動により、最も被害を被る貧困層を多く抱えるエリアであったり、海面上昇により、国そのものの存続が危ぶまれる島国。こうしたグループが、経済成長を優先させたい中国やインド等に呼びかけ・・・
温暖化対策に向けた各国の駆け引きと交渉のストーリー、小説にも勝る面白さがありました。
●非国家による温暖化対策のアクション
今、まさに海外では、地球温暖化対策に向け、民間企業を中心にその動きが加速化しています。
まずは、本書でも紹介されている、国連のWebサイトにそのプラットフォームが構築されている「NAZCA」。現時点で、企業や自治体、地域等が自ら、温暖化対策へのアクションやコミットメントを登録しています。ぞの数は、全世界で2万件近くにも上ります。
また、事業運営を100%再生可能エネルギーで調達することを目標に掲げる企業が加盟する、UKで立ち上げられたイニシアティブ RE100
2019年5月現在、175の企業が参加し、日本企業は19社(リコー、イオン、アスクル、積水ハウス、大和ハウス、電通イージス・ネットワーク、富士フイルムホールディングス、富士通、ソニー、丸井グループ、城南信用金庫、戸田建設、野村総合研究所、ワタミ、エンビプロ・ホールディングス、芙蓉総合リース、大東建託、東急不動産)が参加。その参加数は年々増えています。
さらに、日本に必要な政策として本書でも提言している、炭素税や排出権取引制度の導入。この5月には、驚くべきニュースがアメリカから届きました。
なんとナイキやマイクロソフト、ユニリーバ等の世界を代表する企業75社が連携し、アメリカ議会にカーボンプライシング、つまり、排出した二酸化炭素に価格を付けることや気候関連法成立を求める声明を議会に提出したのです。
パリ協定 脱退を表明しているトランプ政権下でも、温暖化対策に積極的で、しかも短期的にはコスト増にならざるを得ない炭素税の導入をも後押しするアメリカの先進企業。
一方、炭素税導入には既に経団連を始めとする産業界の団体が反対を表明し、温暖化対策に消極的な現政権の日本。日本企業はこうしたアメリカの先進企業に追随しパリ協定の目標達成に向けて主導権をとることが出来るのか?
今世界が注目していると言えます。
地球温暖化は解決できるのか――パリ協定から未来へ! (岩波ジュニア新書)
- 作者: 小西雅子
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2016/07/21
- メディア: 新書
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全てを受け入れる良心 「ダイバーシティとマーケティング」 ブックレビュー
「正しさは一つではない」「私は違うけど、あなたの考えも良いよね」「自分が正しくないと思うことを相手に対してしない」などのダイバーシティ視点の良心が、ビジネスパーソンや企業(トップ)に問われるのではなかろうか。
SDGsの目標5にも掲げられるジェンダー平等。今回採り上げる「ダイバーシティとマーケティング」、述べられるのは、性的マイノリティであるLGBTに関わること。そして、LGBTをどう企業戦略に活かすかというのがテーマの本書。
まずは、本書でも引用元として、度々挙げられる、電通のLGBTに関する調査(全国20歳~59歳の6万人を対象)によれば、
- LGBT層に該当する人:8.9%
- 「LGBT」という言葉の浸透率:68.5%
- LGBT層をサポートする企業の商品・サービスを購買・利用する:53%
LGBTにフレンドリーな企業であることが購買意欲に繋がり、数兆円と言われる市場規模が見込めるのであれば、企業はマーケティング施策としてLGBTを進めるべき。では、どう進めるのかを期待して読み進めたわけですが・・
●企業自らの実践に勝るものなし
読後の感想は、LGBTをマーケティング戦略として活かすには、一朝一夕に難しいということ。それは、本書でも紹介される、著者知り合いの性的マイノリティーの方へのインタビューのコメント。
Q:「私たち○○○社は、LGBTへの支援の一環として、□□□に協賛しています」と堂々とアピールする会社があったら、どう思う?
A:正直言ってあまり良い気はしない。どうせ広告の口先だけで、うさん臭い。全員がカミングアウトしているわけではないので、そんなことを謳っている企業をむしろ敬遠する性的マイノリティーも多いはず。
コンプラ違反のブラック企業がCSVを進めても説得力もなく、支持されないのと同様、LGBTをマーケティングとして活用するのであれば、企業としての理解に加えて、社内の人事制度や就労面でのルール等、企業自らが実践していなければ、LGBTへの支持を声高々に叫んでも何の説得力もないということ。
そういった意味では、マーケティング戦略以前に、人事制度や採用基準、就労ルール等の整備が必須、つまり、人事部門や総務部門に本書のヒントがありそうです。
●実践する企業からのヒント
本書後半には、マーケティング事例として、ライフネット生命保険、ラッシュジャパン。ネオキャリア、ホテルグランヴィア京都の4社インタビューが掲載されていますが、その中で、ヒントとなるコメントを紹介しましょう。
ライフネット生命保険:顧客セグメントはその方をどの一面で切り取るかで変わります。LGBTというセグメントであることも、その方の一部ではあるけれど、すべてではないはずです。そう考えれば、選択肢を増やすということがダイバーシティ・マーケティング参入の基本となる考え方ではないかと思います。
ラッシュジャパン:LGBTも含むダイバーシティ施策というのは、やるメリットよりも、やらないリスクが大きく、得られるものより失うものの方が大きいものなのだと思います。働きにくい環境にあることで20人に1人いるといわれるLGBTの人たちが、会社で長く働けないという環境になるかもしれないですし、働きにくい環境が存在することが原因で、仕事に集中できなちということがあってもいけない。
私の所属する企業が主催し、一昨年よりスタートしている「大学生CSVビジネスアイデアコンテスト」。
2018年の前回行われたコンテストは、大学生から延べ60件ものアイデアのエントリーがありましたが、解決する社会課題として挙げられたテーマで最も多かったのは、LGBTとプラスチック廃棄問題。
Z世代と呼ばれる若者層の関心も高く、LGBTフレンドリー企業への購買意欲も高まるという調査結果。まずは、社内制度の整備に取り組むことは将来のビジネス成果へと繋がることでしょう。
ダイバーシティとマーケティング -LGBTの事例から理解する新しい企業戦略- (宣伝会議 実践と応用シリーズ)
- 作者: 四元正弘,千羽ひとみ
- 出版社/メーカー: 宣伝会議
- 発売日: 2017/03/01
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モノから結果の提供へ 「サブスクリプション」 ブックレビュー
- 顧客と長期的な関係を築くために何をすればよいのか?
- 所有ではなく結果を期待する顧客に何をすればよいのか?
- とうすれば新しいビジネスモデルを生み出せるのか?
- どうすれば顧客に継続的な価値を提供し、定期収益を増やせるのか?
「代理店のマージンや販売本数ではなく、サブスクライバー・ベースとエンゲージメントに意識を向けた。それは、顧客をギターの所有者として見るのではなく、ギター奏者として、生涯にわたる音楽愛好家として見るということだ」 :フェンダー社 アンディ・ムーニーCEO コメント
サブスクリプション――「顧客の成功」が収益を生む新時代のビジネスモデル
- 作者: ティエン・ツォ,ゲイブ・ワイザート,桑野順一郎,御立英史
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2018/10/25
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歴史に名を刻む組織とは? 「アイコン的組織論」ブックレビュー
- ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団→交響曲のクラッシック音楽(1888年)
- エル・ブリ(「世界一予約のとれないレストラン」・料理研究財団)→美食(1964年)
- マッキンゼー(マネジメント・コンサルティング)→マネジメント・コンサルティング(1926年)
- オールブラックス→ラグビー(1905年)
- スタインウェイ→ピアノ製品(1853年)
- W.L.ゴア(ゴアテックス メーカー)→テクノロジーを使った製品の革新(1958年)
- ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団→交響曲のクラッシック音楽(1882年)
- ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団→交響曲のクラッシック音楽(1842年)
- ハーレム・グローブ・トロッターズ→バスケットボール、エンターテインメント(1927年)
- ジョンズ・ホプキンズ・メディスン(全米病院ランキング21年連続1位)→病院・医科大学(1889年)
- シェル→石油、ガスの採掘(1907年)
- P&G→消費者製品の革新とマーケティング(1837年)
- ダナハー(M&A)→買収やパフォーマンスの改善(1969年)
- プリンストン高等研究所(ノーベル賞受賞者を多数輩出)→基礎科学研究(1930年)
アイコン的組織論ー超一流のコンサルタントたちが説く「能力の好循環」
- 作者: ザビエ・ベカルト,フィリス・ヨンク,ヤン・ラース,フェボ・ウィベンス,稲垣みどり
- 出版社/メーカー: フィルムアート社
- 発売日: 2017/10/25
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大海賊の包括的視点を 「宇宙船地球号 操縦マニュアル」ブックレビュー
現在のレオナルド・ダ・ヴィンチといわれるバックミンスター・フラーによる、1969年に発表した 「宇宙船地球号操縦マニュアル」
地球上に暮らす人類が、今風に言えば、どうサステナブルに生きていくのかを世に問うたのが、今から50年前。
1969年当時、地球環境問題や科学技術の分野で何か起きていたかをちょっと整理してみました。
1962年 レイチェル・カーソン 「沈黙の春」発表
1969年 環境NGO Friends of the Earth設立
1969年 アポロ11号 人類史上初の月面着陸
<本書 発表はこの辺り>
1970年 大阪万博開催 テーマは、 「人類の進歩と調和」
1970年 4月22日をアースデイと宣言
1971年 ラムサール条約 制定
1971年 日本で環境庁が設立
1972年 ストックホルム 国連 人間環境宣言
1972年 民間シンクタンク ローマクラブ「成長の限界」発表
1972年 国連環境計画(UNEP)発足
1972年 ワシントン条約 採択
「大海賊」(グレート・パイレーツ)の支配(包括性)は、第一次世界大戦を契機とした科学的、技術的革新により、専門性が進んだ。しかし、宇宙船地球号の操縦するには、専門家としてその役割をコンピューターに取って代わられようとされているため、人間は生来の「包括的な能力」を復旧し、活用することが求められているということ。
●冨の意味
「物質的に規定されたある時間と空間の解放レベルを維持するために、私たちがある数の人間のために具体的に準備できた未来の日数」
”We are programmed to receive. You can checkout any time you like, but you can never leave!”
「我々は運命を受容れるしかない。好きなときにチェックアウトはできるが、立ち去ることは決して出来ない」
- 作者: バックミンスターフラー,Richard Buckminster Fuller,芹沢高志
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2000/10/01
- メディア: 文庫
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Re-Imagine~再考せよ 「大量廃棄社会」 ブックレビュー
一般によく言われる「大量生産・大量消費」、これからは、「大量生産・大量廃棄」と言い換えた方がよさそうです。つまり、本来、人の口に入れられたり、袖を通すことを前提に作られた食品や衣類は、「消費されず」に大量に捨てられているから。
これは、海外のアパレルメーカーが年間に焼却している自らが製造した商品。
着る人も作る人も豊かに、持続可能なモノ作りのサイクルを構築するアパレルメーカー
工場との直接契約により、メイドインジャパンの高品質な商品を提供するアパレルブランド
●Reimagine~再考せよ
パタゴニア Webサイトより
「故郷である地球を救うためにビジネスを営む」をミッションステートメントに掲げるパタゴニア。
私たち消費者は、サステナブルな社会に向けて、普段の買い物においても、未来のこと、身近な社会のこと、そして地球の裏側のことまで、もう少し想像力を働かせる必要がありそうです。