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都内在住ビジネスマン。CSV、サステナビリティ等に関することを 2019.5 Livedoor Blogから引っ越してきました。

始まりは夢想家の妄想から 「直感と論理をつなぐ思考法 VISION DRIVEN」ブックレビュー

成功するプロジェクトとそうでないプロジェクトの違いは、そこに「妄想」を持った人がいるかどうかでしかないということだ。目の前の世界はどんどんと移り変わっていくし、短期的には失敗や生涯も出てくるだろう。その長い失望の期間に耐え得るのは、あなたの内面から掘り起こした「好き」や「関心」をおいてほかにない。(本書より)
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個人的な関心(妄想)を起点として、創造性をドライブさせイノベーションを起こすための思考法が「ビジョン思考」
 
その「ビジョン思考」を作り出すために必要なのが、「自分モード」つまり、自分のための思考や時間の余白を確保すること、そうした環境を基盤として、妄想を現実化しイノベーションを起こすための方法論を以下の4つのステップで解説するのが本書となります。
 
・妄想:自分モードで内省し妄想する
・知覚:言語と視覚を往復し解像度を上げる
・組替:アイデアを分解し再構築する
・表現:影響を与えるためにプロトタイピングを行う
 
「直感から思考をはじめる」とは、「ただの妄想で終わる」ということではない。
ビジョナリーな人たちは、途方もないビジョンを駆動力にしながらも、同時に「直感」を「論理」につなぎ、「妄想」を「戦略」に落とし込むことを忘れていないのである。
 
ここでは、1つ目の「妄想」、最後の「表現」に絞り、そのエッセンスを紹介しましょう。
 
 
●10倍にすることを考える「妄想」

 

一つ目のステップである「妄想」
このプロセスでのポイントの一つが、「10%成長」よりも「10倍成長」を考える ということ。
最近では、ハーバード・ビジネススクールでも、以前にこのブログでも紹介したシンギュラリティ大学でも、ムーンショットやBig Ideaが求められ、その方が簡単であると教えられているとの事。

 

なぜ簡単なのかと言えば、
・10%の成長:努力や頑張りが必要
・10倍の成長:従来の努力や頑張りでは達成不可能なため、根本的に別のやり方を考える必要に迫られる
10倍の成長という途方もない大きな目標があると
→個人の創造力や内発的な動機に訴えかけるアプローチを取らざるを得なくなる
→「努力」の呪縛から自分を解放することができる
→世の中に存在するあらゆる資源を活用しようという発想になる

 

では、イノベーションの起点となる「妄想」を引き出すためにどうするか?
そのための具体的ないくつかの具体的な手法が示されていますが、基本的には冒頭で示された自分モードの時間(余白)を確保し、考えるという事。

 

その中で、最も興味深かったのは、自分自身への「問いかけ」の「問いの立て方」を変えること。
問いの立て方を変えるとは、

 

「どうすれば・・・できるだろうか?」(マイナスからゼロ:問題解決)
「もし・・・なら、どうなるだろうか?」(ゼロからプラス:妄想駆動)

 

内省的な動機付けとその熱量を持続させるためのユニークな方法論と言えるでしょう。
「もし・・・なら、どうなるだろうか?」 の・・・の箇所は、人に置き換えるとわかり易いかもしれません。
 
もし、イーロン・マスクなら、ウォルトディズニーなら、イチローなら、ジョン・レノンなら・・・
そう考えるとワクワク感溢れる突飛な発想つまり、10倍にするアイデアが生まれそうな気がしませんか?

 

日頃ついつい「地に足がついた」発想をしてしまいがちな自分を捨てて、なるべく遠くまで思考を「飛ばす」ことを意識してみよう。

 

 
●人を動かし影響を与える「表現」
 
ここでの表現の一つに挙げられるのは、デザイン思考でのその重要なプロセスとなるプロトタイピングのこと。
著者は、表現は、「他人に影響を与えること」を最終目標にすべきとしていますが、プロトタイプの重要性や有効性を示す、著者自身が体験した、本書の「装丁」のエピソードが示されます。

 

また、「速さ」こそが「質」を高める という考え方。つまり、かけた時間と完成度の高さは決して比例するものではないということ。
制限時間を設け、とりあえずはアウトプットをし改善していくこと、そのためには、考えるよりも手を動かすという事を「マシュマロ・チャレンジ」とうゲームを例に解説しています。
 
ビジョン思考の世界では、原則として「最終成果物」というものはあり得ない。存在するのはつねに「更新」を控えた試作品、いわゆる「永遠のβ版」である



●最後に

 

本書紹介の本質からは外れますが、序章で述べられる「デザイン思考の本質」 が、とてもコンパクトにわかりやすくまとめられているくだりは、手っ取り早くデザイン思考を知りたい人には、うってつけの内容でしょう。
1.手を動かして考える:プロトタイピング
2.五感を活用して統合する:両脳思考
3.生活者の課題をみんなで解決する:人間中心共創
 
また、本書で各章の扉ページに掲載されるアート作品とその章で述べられる内容とが連動し、各章での主題を印象付けるとても素敵な仕掛けになっています。

ちなみに最終章の扉は、ゴーギャンのこの作品。
Gauguin
「我々はどこから来たのか、我々は何者か、我々はどこへ行くのか」

 

最後にもう一つ、最後の章で述べられる、「妄想」に関する本書の引用を。

 

SDGsを参照するまでもなく、世界には大きな課題がまだいくらでもある。予期せぬ問題がさらに噴出してくることもあるだろう。たとえそうなのだとしても、これからの世界で大切なのは、いきなり「世界を救う」 「人を助ける」という場所からスタートするのではなく、まずは自分自身の「妄想」に対して正直になることだと思う。そこからさらに、それを実現する仲間を見つけていくときの「旗印」として、SDGsは機能するだろう。
その意味で、ビジョン思考こそが、「本当に社会を変えたい人のための思考法」なのだと僕は信じている。
 
直感と論理をつなぐ思考法 VISION DRIVEN

直感と論理をつなぐ思考法 VISION DRIVEN

 

 

ゴーギャン (新潮美術文庫 30)

ゴーギャン (新潮美術文庫 30)